思想かんがえ)” の例文
それともまた、思想かんがえというものが跡形もなく消え失せてしまって、流れぬ水のように、一ところに澱んだままになっていたのだろうか。
狂女 (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
大森林に連続つづいた谷間たにあいの町でも、さすがに暑い日は有った。三吉は橋本の表座敷にこもって、一夏かかって若い思想かんがえまとめようとしていた。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
水で冷えたのだから折返して温めさえすれば直ると思っているのだろう。ドクトル森川にも似合わぬ単純な思想かんがえである。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
頭が混乱していた……変化……それに酷似そっくりの顔……あの青年の告白……私は静かに坐って、思想かんがえを纏めようと努めたが、眼はひとりでに書架の上の骸骨の方へ惹付けられていた。
誰? (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
私はそういう思想かんがえを打ち破るために来た者じゃ
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
この思想かんがえはお種に非常な侮辱を与えた。その時お種は、橋本の家に伝わる病気を胸に浮べた。何かにつけて、彼女は先ずその事を考えた。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
油屋の白井さんはナカ/\の豪物えらぶつでございますよ。先代が亡くなると直ぐに抱えの女郎衆を悉皆すっかり親元へ帰してやって旅館に商売替を致しました。思想かんがえの進んでいる人はすることが違いますな。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「自分は未だ若い——この世の中には自分の知らないことが沢山ある」この思想かんがえから、一度破って出たふるい家へ死すべき生命いのちも捨てずに戻って来た。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
足を洗おう、早く——この思想かんがえは近頃になってことはげしく彼の胸中を往来する。その為に深夜よふけまでも思いふける、朝も遅くなる、つい怠り勝に成るような仕末。
並木 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
兄妹きょうだいの愛——そんな風に彼の思想かんがえは変って行った。彼は自分の妹としてお雪のことを考えようと思った。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
彼処あすこに子供が三人居るんだ」——この思想かんがえに導かれて、幾度いくたびか彼の足は小さな墓の方へ向いた。家から墓地へ通う平坦たいら道路みちの両側には、すでに新緑も深かった。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
新宅は又た東京風。家の構造つくりを見比べても解るのです。旦那様は小諸へ東京を植えるという開けた思想かんがえを御持ちなすった御方で、御服装おみなりも、御言葉も、旧弊は一切御廃し。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
名倉の阿爺おやじを見給え。あの人は事業をした。そして、儲けた。どうも君等のは儲けることばかり先に考えて掛ってるようだ……だから相場なんて方に思想かんがえが向いて行くんじゃ有りませんか
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
あの蛙が旅情をそそるように鳴出す頃になると、妙に寂しい思想かんがえを起す。
朝飯 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
思いもよらない悲しい思想かんがえがあだかも閃光せんこうのように岸本の頭脳あたま内部なかを通過ぎた。彼は我と我身を殺すことによって、犯した罪を謝し、後事を節子の両親にでもたくそうかと考えるように成った。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
吾家うちのお父さんはああいう思想かんがえの人ですからねえ」と節子は答えた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)