こつ)” の例文
早暁臥床を出でゝ、心は寤寐ごびの間に醒め、おもひは意無意いむいの際にある時、一鳥の弄声を聴けば、こつとしてれ天涯に遊び、忽として我塵界に落るの感あり。
山庵雑記 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
と、階下を見ると、その人、身の丈は長幹の松の如く、髯の長さ剣把けんぱに到り、臥蚕がさんの眉、丹鳳たんほうまなこ、さながら天来の戦鬼が、こつとして地に降りたかと疑われた。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私には何もかもまだはっきりと分りませんが、ういうことも麗姫に云って聞かせてやったのです。南海にしゅくという名前の帝があった。北海にこつという名前の帝があった。
荘子 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
また春が来ますと、今までは蕭条しょうじょうとして常磐木ときわぎのほかの万木千草はことごとく枯れ果てたかと思われていた中に、その一つの枯木の枝頭にこつとして芬香ふんこうを吐くところの白いものを見出みいだします。
俳句とはどんなものか (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
高廉こうれんの妖法は、ただ宇宙の天色や気象に異変を呼び起すだけでなく、こつとして、炎を大地に生ぜしめ、また大洪水おおみずを捲きおこし、そうかと思うと、豺狼さいろう豼貅ひきゅう虎豹こひょうなどの猛獣群を
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
旗さし物や、甲冑で、槍の光が、朝の陽にきらめいているのが、こつとして、山霊のふところから湧き出た雲の如く見えた。秀吉の姿は目撃されないまでも、秀吉のそこに在ることが証せられていた。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)