心待こころまち)” の例文
式なればえも隠さでいだしたるなどを、額越ひたいごしにうち見るほどに、心待こころまちせしその人は来ずして、一行はや果てなむとす。
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
後で聞きますと、それが山へ来る約束の日だったので、私の膝に居る女が、心待こころまち古家ふるいえ門口かどぐちまで出た処へ、貴下あなたが、例の異形で御通行になったのだそうです。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
二三日前にさんちまえからもうおいでだろうと思って、心待こころまちに御待申しておりました」などと云って、眼のふち愛嬌あいきょうただよわせるところなどは、自分の妹よりもひんいばかりでなく
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
翌日になるとの僧がまた来た。心待こころまちに待っていた三左衛門はすぐ碁盤を出して、まずじぶんせんでやってみた。先でやってみると昨日きのうのように勝った。そして、後手ごてでやるときっと負けた。
竈の中の顔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
今までは毎年まいねん長い夏休みの終る頃といえば学校の教場がなんとなく恋しく授業の開始する日が心待こころまちに待たれるようであった。そのういういしい心持はもう全く消えてしまった。つまらない。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そう致してあなたがおいでなさりはなさるまいかと二週間位は心待こころまちに待つのでございましょうよ。(笑う。)わたくし共が二十年も御一しょに暮した事は、おばさんは知らないのですからね。