御馴染おなじみ)” の例文
「僕はボヘミヤンだ。君のようなエピキュリアンじゃない。到る処の珈琲店カッフェ酒場バア、ないしはくだって縄暖簾なわのれんたぐいまで、ことごとく僕の御馴染おなじみなんだ。」
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「イエ是非といって御無理を願う訳ではありませんが、御都合がよければ——実は御馴染おなじみにもなっておりますし家内や妹も大変それを希望致しますから」
倫敦消息 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
御馴染おなじみの八五郎、神妙に格子を開けて、見透しの六疊に所在なさの煙草にしてゐる錢形平次に聲を掛けました。
前に見えるのは悪沢と赤石で、右に近いのは御馴染おなじみの白河内らしい。他は近所にある小山にさえぎられて、残念ながら目に入らない。二時間ほどにして山を下った。
白峰の麓 (新字新仮名) / 大下藤次郎(著)
一度も談話はなしした事もなく、ただ一寸ちょいと挨拶をするくらいに止まっていた、がその三人の子供が、如何いかにも可愛かあゆいので、元来が児好こずきの私の事だから、早速さっそく御馴染おなじみって
闥の響 (新字新仮名) / 北村四海(著)
それでもう御馴染おなじみになったタクシー君に、どこでもよいから何とかしてくれと頼んだ。そしたら名前だけは、メルローズ・ホテルという立派な名前の家へ連れて行ってくれた。
アラスカ通信 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
聞いてみると、御名前が榊さんだ。小泉の叔父の話に、よく榊さんということを聞くが……もしや……と思って、私が自分で買いに行ってみました。果して叔父さんの御馴染おなじみの方だ。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
さてはや半札の円公は、御神燈の下から、まず御馴染おなじみ顔色がんしょくを御覧に入れますると
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
従ってこの下宿の帳場に坐っていつもいつも同じように長い煙管きせるをふすべている主婦ともガラス障子越しの御馴染おなじみになって、友の居ると居ないにかかわらず自由に階段を上るのを許されていた。
雪ちゃん (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
米斎君としてはこれが最後だったわけで、先達せんだっても奥さんが御見えになった時、丁度私のものが最後になって、かなり久しい御馴染おなじみでしたが、やはり御縁があったんでしょうと申上げたような次第です。
久保田米斎君の思い出 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
明智の顔は新聞で御馴染おなじみになっているので、間違いはない。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
これが画端書えはがきでも御馴染おなじみの、名高い城内の城隍廟じょうこうびょうである。廟の中には参詣人が、入れかわり立ち交り叩頭に来る。勿論線香を献じたり、紙銭を焚いたりするものも、想像以上に大勢ある。
上海游記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「あなたの御馴染おなじみの子供は三人とも亡くなってしまいました。一頃ひところは輝も居て手伝ってくれましたが、あの人もお嫁に行きましてね、今では節ちゃんが子供の世話をしていてくれます」
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「だって、古い御馴染おなじみじゃありませんか」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
三吉は姉の側に坐って、「姉さん、御馴染おなじみの子供は一人も居なくなりました」
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「但し御馴染おなじみだって、借のある所にゃ近づかないがね。」
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「ええ、君の御馴染おなじみの国へ行ってまいりますよ」
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「君こそ妙な所が御馴染おなじみじゃないか。」
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「お前とも永い御馴染おなじみだな。が、今日が御別れだぞ。明日はお前にも大厄日だ。おれも明日は死ぬかも知れない。よし又死なずにすんだ所が、この先二度とお前と一しよに掃溜はきだめあさりはしないつもりだ。さうすればお前は大喜びだらう。」
お富の貞操 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)