御連枝ごれんし)” の例文
死ぬる日の半月ばかり前に、偶然に行きあったのは、かの、かりそめの別れとすかされて、おとなしくうなずいて別れた東の御連枝ごれんしだった。
九条武子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
列を追ッかけて来て「——狼藉者ろうぜきものを渡せ」と罵り「ここをどこと思う。もったいなくも御連枝ごれんしの宮、すなわち天台座主ざす亮性りょうしょう法親王のお住居なるを」
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
御連枝ごれんしさまをのぞいてはいちばんの上席におつきあそばし、万事につけて列座の衆へ威をふるおうとなされます。
盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
まことぐずり松平の御前とは知る人ぞ知る、この東海道三河路の一角に蟠居ばんきょする街道名物の、江戸徳川宗家にとっては由々しき御一門御連枝ごれんしだったからです。
本願寺の御連枝ごれんしが来られたので、式場の天幕の周囲まわりには、老若男女がぎしぎしと詰め掛けていた。
独身 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
大御所十番目の御連枝ごれんし紀州中納言光定きしゅうちゅうなごんみつさだ公の第六の若君源六郎げんろくろう殿が、修学のため滞在していて、ふだんから悪戯いたずらがはげしく、近在近郷の町人どもことごとく迷惑をしていたが
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
主翁ていしゅ、わしの腰に何があるか見てくれ、わしも天下の御連枝ごれんし紀州侯きしゅうこうろくをはんでいるものじゃ、天狗や木精がいると云うて、武士が一度云いだしたことが、あと退かれるか、お前が恐ければ
山寺の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
名君、勇君とあれば、御連枝ごれんしでも構わず取潰すが、三代以後の大公儀の目安(方針)らしい。尤も島津は太閤様以来栄螺さざえの蓋を固めて、指一本指させぬ天険に隠れておるけに、徳川も諦めておろう。
名君忠之 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
次第によっては歴代の御連枝ごれんし以上に信仰もされている。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
御連枝ごれんしの出で名門の深窓から、青蓮院しょうれんいんへ坐ったのみで、世間知らずの若い座主と心であまく見ていた慈円が、白皙はくせきおもてを、やや紅らめて、きびしい態度に出たので
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
見込みのある御連枝ごれんし(兄弟、近親)でも、御出世はないものと見られ、せめて子爵でなくとも、男爵ででもおありならと、武子さんの配偶が断られた訳もそこにある。
九条武子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
今はその水一つが敵と味方との分れ目となって、護らねばならぬ筈の徳川御連枝ごれんしたる水藩が、率先勤王倒幕の大旆たいはいをふりかざし乍ら、葵宗家あおいそうけに弓を引こうとしているのだ。
老中の眼鏡 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
なにぶん先君の御連枝ごれんしのことでござりますから秀吉公もかんにんあそばされ、しからば御老母をひとじちにいたゞきますと仰っしゃって、おふくろさまを安土のおしろへおうつし申し
盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
籌子かずこ夫人のこのお婿さん工作も、愛弟だったときけばうなずけるし、実家のあによめは東本願寺からきた人で、例の御連枝ごれんしと縁のあるかたであり、それらの張合もないとはいえまいが、良致氏は
九条武子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)