影膳かげぜん)” の例文
……お梅のほうは顔もよく覚えていない金三郎を恋い慕い、佐土原さどはら人形に着物をきせて三度々々影膳かげぜんをすえ、あなた、あなたと生きた金三郎がそこにいるようにねんごろに話しかける。
顎十郎捕物帳:20 金鳳釵 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
柏崎海軍少尉かしはざきかいぐんせうゐ夫人ふじんに、民子たみこといつて、一昨年いつさくねん故郷ふるさとなる、福井ふくゐ結婚けつこんしきをあげて、佐世保させぼ移住うつりすんだのが、今度こんど少尉せうゐ出征しゆつせいき、親里おやざと福井ふくゐかへり、神佛しんぶついのり、影膳かげぜんゑつつにあるごと
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
死んでも誰にも祭られず……故郷では影膳かげぜんをすえて待ッている人もあろうに……「ふるさと今宵こよひばかりの命とも知らでや人のわれをまつらむ」……露の底の松虫もろともむなしくうらみにむせんでいる。
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)