)” の例文
壁に寄せて古甕ふるがめのいくつか並べてあるは、地酒が溢れて居るのであらう。今は農家は忙しい時季ときで、長く御輿みこしゑるものも無い。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
右の八幡の神楽組かつて附馬牛村に行きて日暮ひぐれ宿を取り兼ねしに、ある貧しき者の家にてこころよくこれをめて、五升ますを伏せてその上にゴンゲサマをえ置き、人々はしたりしに
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
青山の母の墓に参詣して、其れから永阪の教会へ行つて、母のいた洋琴オルガンの前にわることの外は無かつたのです、私の文章も歌も何時も母のことばかりなんですから、貴嬢の思想は余り単調だと
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
斯うして会場の正面にゑられた敬之進を見ると、今度は反対あべこべに彼の古壁に倚凭つた娘のことを思出したのである。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
叔父は丑松の帰村を待受けて、一緒に牧場へ出掛ける心算つもりであつたので、兎も角も丑松を炉辺ろばたゑ、旅の疲労つかれを休めさせ、例の無慾な、心の好ささうな声で、亡くなつた人の物語を始めた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)