布引ぬのびき)” の例文
葦屋あしやの里、雀の松原、布引ぬのびきの滝など御覧ごらうじやらるるも、ふるき御幸ごかうどもおぼし出でらる。生田いくたの森をも、とはで過ぎさせ給ひぬめり。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
車内に納まっている中老紳士は、千万長者と聞えた、布引ぬのびき銀行の取締役頭取とうどり、布引庄兵衛しょうべえ氏だ。この人にしてこの自動車、この運転手、さもあるべきことだ。
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
女貌の布引ぬのびき瀑も白く光つて見える。最近此の附近には雨が降つたさうで、今晩も雪らしいと女達は告げた。
黒岩山を探る (旧字旧仮名) / 沼井鉄太郎(著)
地誌をあんずるに、摩耶山は武庫郡むこごおり六甲山の西南に当りて、雲白くそびえたる峰の名なり。山の蔭に滝谷たきだにありて、布引ぬのびきの滝の源というも風情なるかな。上るに三条みすじみちあり。
一景話題 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これはちょっともののけの感じが出ている、『四谷怪談』中の唯一の怪味であろう。『源平げんぺい布引ぬのびきたき
ばけものばなし (新字新仮名) / 岸田劉生(著)
それより普通の漆器で出来のよい「わっぱ」だとか、柄杓子えびしゃくなどを選びたく思います。「わっぱ」は曲物まげものの弁当箱で別に汁入もこしらえます。手堅い品になると布引ぬのびきであります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
今日は布引ぬのびき方面へ行って来たとか、六甲山方面とか、越木こしき岩方面とか、有馬温泉方面、箕面みのお方面、とか云う風な各地の水害視察談で、時には写真を現像して持って来たりして
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
白銀色しろがねいろ布引ぬのびきに、青天あをぞらくだし天降あもりしぬ。
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
這うて布引ぬのびきノ滝へ出る一路しかあるまいぞ。はやく出ろ、ここを去れッ。正成の最期をさまたげるな。正成に心しずかな死を遂げさせい
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
白銀色しろがねいろ布引ぬのびきに、青天あをぞらくだし天降あもりしぬ。
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
觔斗雲きんとうんに乗った孫悟空ならば、小手をかざして、そのあたりから見渡せる伊賀甲賀の峰々谷々の朝げしきを俯瞰ふかんし、布引ぬのびきの山や、横田川の絶景を賞しながら、はるか行く手にはまた、一面の鏡か
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)