山梔子くちなし)” の例文
山梔子くちなしの実を噛ませると吐く。黒砂糖を白湯でのむ。塩の汁をたくさん飲む。樟脳を湯にたてて服用する。などは松屋筆記の記載。
河豚 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けた少時しばし竹藪たけやぶとほしてしめつたつちけて、それから井戸ゐどかこんだ井桁ゐげたのぞんで陰氣いんきしげつた山梔子くちなしはな際立はきだつてしろくした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
貴方が何處かの海邊に行つていらつしやるとの事、一週間ばかり前に山梔子くちなし孃からいただいた手紙で知つては居ました。
七つの手紙:或女友達に (旧字旧仮名) / 堀辰雄(著)
「この国中の人間が皆口が無いのに、私一人口があるのについては、それはそれは悲しいお話があります。あなたはあの山梔子くちなしという花を御存じですか」
オシャベリ姫 (新字新仮名) / 夢野久作かぐつちみどり(著)
そしてその下草にところ/″\山梔子くちなしが咲いてゐた。花の頃の思はるるほど、躑躅の木も多かつた。岡のあちこちに設けられた小徑はまだ眞新しく、新聞紙など散らばつてゐた。
梅雨紀行 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
木立こだちの間には白けた夏の夜のそらが流れ、其処そこにはまた数限も無い星がチラ/\またたいて居る。庭の暗の方から、あまい香や強い刺戟性しげきせいの香が弗々ふつふつと流れて来る。山梔子くちなし、山百合の香である。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
山梔子くちなしの花はほの暗い五月闇さつきやみの中に、白い顔をもたげて、強い匂の手で通る人を呼びとめた、あの素晴らしいの形や色はそんな心根の暖い情愛の言葉でなかつたならば何であつたらう。
雑草雑語 (新字旧仮名) / 河井寛次郎(著)
婢は新に田舎より来て、「めし」を「御膳」と呼ぶことを教へられてゐた。それゆゑ「をみなごぜん」と云つた。上原の妻は偶山梔子くちなしの飯をかしいでゐたので、それを重箱に盛つて持たせて帰した。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
山梔子くちなし孃の手紙に貴方が身體の弱いのに無理ばかりしてゐるといつて氣づかつて來ましたが、かうやつて山の中で氣ままにしてゐる私はともかくも、本當に貴方こそ無理をなすつてはいけませんね。
七つの手紙:或女友達に (旧字旧仮名) / 堀辰雄(著)