小面憎こづらにく)” の例文
「浅井の臣、前波まえなみしんろうッ。織田殿にこそ、この槍を見参にと参ったるに、邪魔だてする小面憎こづらにくわっぱめ。何奴なにやつだ」
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それを今日までの毛ほども感づかれないようにしていた幼い者の心づかいが、いじらしくも不憫ふびんでもある一方、あまりのことに小面憎こづらにくい心地さえした。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
本間さんはそれを見ると何故か急にこの老紳士が、小面憎こづらにくく感じ出した。酔っているのは勿論、承知している。
西郷隆盛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
小僧はてんでに女の悪口あっこうを言い出した。内儀さん気取りでいたとか、お客分のつもりでいるのが小面憎こづらにくいとか、あれはただの女じゃあるまいなどと言い出した。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
女房は余計な口さえ出さなければ、書生さんに持って往ってもらうのに、と、夫の贅言ぜいげん小面憎こづらにくかった。
黄灯 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
もうそれだけで、恭一がひどく馬鹿をみているように思えたし、それに恭一の親切をいいことにして、あくまでも図にのっている次郎が、小面憎こづらにくくてならなかった。
次郎物語:02 第二部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
「私はお前さんの力ぐらゐには驚かんね! どうでも勝手に、もつとしつかりやつて見るがいい!」と、その藤蔓は小面憎こづらにくくも彼を揶揄やゆしたり、傲語がうごしたりするのであつた。
あんまり仕合せがよいというので、小面憎こづらにくく思ったやからはいかにも面白い話ができたように話している。村の酒屋へ瞽女ごぜを留めた夜の話だ。瞽女のうたが済んでからは省作の噂で持ち切った。
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
ケンツク同様の小面憎こづらにくい挨拶である、こんな状態で如何に至急を要する事であっても容易に掲載してくれない、此外円本の大広告を掲載するがために、緊急の報道記事を削去することもある
ぼくは、「そうかねエ」とにもつかぬ嘆声たんせいを発したが、心はどうしよう、と口惜しく、張りけるばかりでした。が、その運転手は同情どころかい、といった小面憎こづらにくさで、黙りかえっています。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
然れども眼は必ずしも論ずるものありと言ふべからず、即ち北原君の小面憎こづらにくさを説いて酔眼すゐがんに至る所以ゆゑんなり。
田端人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「……小面憎こづらにくさよ」と、宋江はその姿態しなを見すえながら、白い絹足袋をぬぎ、帯を解き、そしてふところの書類ばさみと紙入れとを、小卓の上におこうとしたとき、ことんと
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
荒武者の中でも、精悍無比せいかんむひな中川瀬兵衛は、小面憎こづらにくく思ったか
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)