小屋掛こやがけ)” の例文
というのは、この村右衛門は初め歌舞伎役者でしたのが、一方からいえば堕落して、小屋ものとなって西両国の小屋掛こやがけで芝居をしていた。
江戸か東京か (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
三日以後にも昼夜数度の震動があるので、第宅ていたくのあるものは庭に小屋掛こやがけをして住み、市民にも露宿するものが多かった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
戸を出づれば小屋掛こやがけの小劇場より賑かなる音樂の聲聞ゆ。われ等二人は群集の間に立ちてその劇場のさまを看たり。
……電車通でんしやどほりへつて、こんなおはなしをしたんぢあ、あはれも、不氣味ぶきみとほして、お不動樣ふどうさま縁日えんにちにカンカンカンカンカン——と小屋掛こやがけかねをたゝくのも同然どうぜんですがね。
深川浅景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そばへ寄って見ると、そこには小屋掛こやがけもしなければ、日除ひよけもしてないで、ただ野天のてん平地ひらちに親子らしいおじいさんと男の子が立っていて、それが大勢の見物に取り巻かれているのです。
梨の実 (新字新仮名) / 小山内薫(著)
北のやかたの守人もりびとのいうには、南野みなみののはてに定明らしい者がたむろしているとも言い、それは一軒のやかた作りではなく、野の臥戸ふしどのような小屋掛こやがけの中に住んでいるとのことだった。
野に臥す者 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
湯壺は去年まで小屋掛こやがけのようなるものにて、その側まで下駄げたはきてゆき、男女ともに入ることなりしが、今の混堂立ちて体裁ていさいも大にととのいたりという。人の浴するさまは外より見ゆ。
みちの記 (新字新仮名) / 森鴎外(著)