家路いえじ)” の例文
夕ぐれ、めっきり水の細った秋の公園の噴水がきりのように淡い水量をき出しているそば子守ナース達は子を乗せた乳母車うばぐるまを押しながら家路いえじに帰って行く。
巴里の秋 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
俊寛は、釣り上げた魚を引きずりながら、自分の小屋への道を辿たどる。一町ばかり歩いて、後を振返った。少女も家路いえじに向おうとして立ち上っている。
俊寛 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
青年は絶えずポケットの内なる物を握りしめて、四辺あたりの光景には目もくれず、野を横ぎり家路いえじへと急ぎぬ。ポケットの内なるは治子よりの昨夜の書状てがみなり。
わかれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
その圧迫する厭やな気分は、どんなにしても自分の家に、彼女を帰らせまいとするほどだった。けれども結局、彼女は重たい外套がいとうを着て、いつも通りの家路いえじをたどって行った。
ウォーソン夫人の黒猫 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
あわれな母親ははおやは、学校がっこうもんをでると、教師きょうしからけた、ひややかなかんじに、学校がっこうをいやがるのも、子供こどもばかりをめるわけにはいかぬと、ふかくかんがえながら、家路いえじいそいだのでした。
天女とお化け (新字新仮名) / 小川未明(著)
警官は金ピカの肩章ようのものをつけていて顔なども老成のあとがあり、平巡査ではなく、署長程度の人ではないかと思われた。巡回の途次ではなくて、家路いえじへ急ぐとでもいう風であった。
篠笹の陰の顔 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
公園の外側のひろびろとした広野を越えて、家路いえじについた。