大紅蓮だいぐれん)” の例文
眼に、比叡ひえい四明しめい大紅蓮だいぐれんを見、耳に当夜の惨状を聞かされていた京洛きょうらくの人々は、信長が兵をひいて下山して来ると聞くと
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
座敷でやみから不意にそれを。明さんは、手を取合ったはあだおんな、と気が着くと、ふすまも壁も、大紅蓮だいぐれん跪居ついいる畳は針のむしろ
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それは一帖の屏風の片隅へ、小さく十王を始め眷属けんぞくたちの姿を描いて、あとは一面に紅蓮ぐれん大紅蓮だいぐれんの猛火が剣山刀樹もたゞれるかと思ふ程渦を巻いて居りました。
地獄変 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
二どめの爆音ばくおんとともに、ふたつにけた望楼台ぼうろうだいは、そのとき、まっ黒な濛煙もうえんと、阿鼻叫喚あびきょうかんをつつんで、大紅蓮だいぐれんきだした殿堂のうえへぶっ倒れた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
僕自身も「姿」とか「形」とか云ふ意味に「ものごし」と云ふ言葉を使ひ、すさまじい火災の形容に「大紅蓮だいぐれん」と云ふ言葉を使つた。僕等の語彙ごゐはこの通り可也かなり混乱を生じてゐる。
そして、恵林寺が大紅蓮だいぐれんにつつまれ、一ざんのこらず最期さいごをとげたなかで、わしだけは、この山奥につながれていたために、おそろしいほのおからまぬがれたのだ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かりに、こういう寺にも、仏心のある菩薩ぼさつすがたがすえられていたならば、むしろ、焼けた方がよいと、大紅蓮だいぐれん厨子ずしのなかで、あざ笑っているかもしれません。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「おおっ、御仏みほとけっ」泣いてさけんだ、焔へ向っても狂わしいほど感謝した。まったく、赫光かっこう大紅蓮だいぐれんのうちに見える生信房の男々おおしい働きは、生ける御仏としか見えなかった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
御方はその胸元へぷつりとさきを落した。その頃はもう、寮の建物はほとんど大紅蓮だいぐれんにくるまれて、まっ赤な光りの中に躍る影が、敵やら味方やら見分けもつかない程であった。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
守将の李豊りほう以下ほとんど斬り殺されるか生擒いけどられてしまい、自称皇帝の建てた偽宮——禁門朱楼きんもんしゅろう殿舎碧閣でんしゃへきかく、ことごとく火をかけられて、寿春城中、いちめんの大紅蓮だいぐれんと化し終った。
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)