夜鴉よがらす)” の例文
小山を三つ越えて大河を一つわたりて二十マイル先の夜鴉よがらすの城に居る。夜鴉の城とは名からして不吉であると、ウィリアムは時々考える事がある。
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「ヘエ、ですが……」と何かいおうとした時に、屋台をかすって、覆面をした侍が十四、五人、追い立てられた夜鴉よがらすのようにバラバラと疾走して行った。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
奇説怪説、雲の如くまき起り、夜鴉よがらす文士やまむし論客のたぐいを毒殺憤死せしめる怪力がこもれば結構である。
彼は一握の桜草さくらそうを引きむしってほおの涙を拭きとった。海は月出の前で秘めやかに白んでいた。夜鴉よがらすが奇怪なカーブを描きながら、花壇の上を鋭い影のように飛び去った。
花園の思想 (新字新仮名) / 横光利一(著)
清き光天にあり、夜鴉よがらすうらも輝き、瀬のあゆうろこも光る。くまなき月を見るにさえ、捨小舟すておぶねの中にもせず、峰の堂の縁でもせぬ。夜半人跡の絶えたる処は、かえって茅屋かややの屋根ではないか。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
点々と、邸の中を、雪の中を、夜鴉よがらすのように疾駆しっくしている黒い人影と刃影はかげ——一学は見た途端に総毛立った。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
夜鴉よがらす羽搏はばたきを聞かぬうちに、花多き国に行く気はないか」とシワルドは意味有気ありげに問う。
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
瓦をむように棟近く、夜鴉よがらすが、かあ、と鳴いた。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「あばよ」賊の乾分こぶんたちは、そういって、性善坊や朝麿の口惜しげな顔を、揶揄やゆしながら、夜鴉よがらすのように、おのおの、思い思いの方角へ、散り失せてしまった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして夜鴉よがらすのような群ら影を躍らせて児屋郷の長い田圃道たんぼみちを駆けきそった。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)