声色せいしょく)” の例文
旧字:聲色
ついに「大雅思斉たいがしせい」の章の「刑干寡妻かさいをただし至干兄弟けいていにいたり以御干家邦もってかほうをぎょす」を引いて、宗右衛門が雝々ようようの和を破るのを責め、声色せいしょく共にはげしかった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
ケダシ先生あらかじメ葬地ヲぼくセシトイフ。遠近会葬スルモノ百ヲ以テ数フ。先生玩好がんこう御セズ。飲酒たしなマズ。もっとも声色せいしょくヲ遠ザク。人ノ妓妾ぎしょうヲ蓄フルヲルモナホコレニつばセント欲ス。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
酒をたしなまず、声色せいしょくを近づけず、職務に勉励にして、人の堪えざるところを為し、しかも、和気と、諧謔かいぎゃくとを以て、部下を服し、上に対しては剛直にして、信ずるところを言い
大菩薩峠:28 Oceanの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
するとどこかの舟の中で琵琶びわをひく音がきこえる。その音は、この片田舎に似あわず、京都けいと声色せいしょくがあった。ぬしはたれぞと問うと、もと長安のうたで、いまはさる商人あきゅうどの妻なるものであるという。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
声色せいしょくを励ますというような処は少しもない。それかと云って、評判に聞いている雪嶺せつれいの演説のように訥弁とつべんの能弁だというでもない。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
声色せいしょくの楽みもなくただ寝るをもて楽みとす。奇書も見るにたらず珍事もきくにあきぬ。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
太平の武士町人が声色せいしょくの快楽を追究してまざりし一時代のだいなる慾情はたちま遊廓ゆうかくと劇場とを完備せしめ、更に進んでこれを材料となせる文学音曲おんぎょく絵画等の特殊なる諸美術を作出つくりいだしぬ。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)