塔婆とうば)” の例文
墓前花堆うして香煙空しく迷う塔婆とうばの影、木の間もる日光をあびて骨あらわなる白張燈籠目に立つなどさま/″\哀れなりける。
半日ある記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
依撒伯拉何々イサベラなになにの墓だの、神僕しんぼくロギンの墓だのというかたわらに、一切衆生悉有仏生いっさいしゅじょうしつうぶっしょうと書いた塔婆とうばなどが建ててあった。全権公使何々というのもあった。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
お庄は小紋の紋附に、帯を締めて、指環で目立つ大きい手を気にしながら、塔婆とうばを持ってみんなと一緒に墓場の方へ行った。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
墓所といっても、大きな栗の木の下に、丸い自然石じねんせきが一つ、ぽつねんとあるだけで、ほかに塔婆とうば一つない山だった。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それは、鹿か何かの髄のついた骨で、楊子代りに、おもちゃのような塔婆とうばがついているものだった。
芝、麻布 (新字新仮名) / 小山内薫(著)
「おや/\、塔婆とうばも一本、流れ灌頂かんちょうと云ふ奴だ。……大変なものに乗せるんだな。」
光籃 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「ああ、海竜があの塔婆とうばの浜のところへ出たよ、こんなつのを二本やしたのが」
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
柾は屋根に箱桶はこおけに曲げ、または柾仏まさぼとけと謂って塔婆とうばなどにも使ったもので、いくら粗末に割ってもこれを焚付けにするのは惜しいようだが、これさえあれば豆ほどの埋火うずみびを起こしても
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
その建築の様式を利用して純粋の礼拝堂を造り、また礼拝の対象たる塔婆とうばを造るに至ったことは、たといその様式に大変化がなかったとしても、なお建築史上の大変革といわなくてはならぬ。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
お墓参りでもた事があるかと、たま東京とうけいへ出てお寺へ往って、これ/\のもので年頃はこれ/\でございますが、塔婆とうばの一本もげてお墓参りには参りませんかと、方丈さまや寺男に聞くのも
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
塔婆とうばが裏返しだぜ」
つめた石塔せきとうに手を載せたり、湿臭しめりくさ塔婆とうばつかんだり、花筒はなづつ腐水くされみずに星の映るのをのぞいたり、漫歩そぞろあるきをして居たが、やぶが近く、ひどいから、座敷の蚊帳が懐しくなって、内へ入ろうと思ったので
星あかり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「番所の先生、先生——大変でございます、塔婆とうばの浜へ海竜うみりゅうが出ました」
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)