堆肥たいひ)” の例文
去年の落葉が堆肥たいひのように腐っている山の尾根だった。自分の声のひびきに、一種の不気味さを感じるほど、そこは静かである。
銀河まつり (新字新仮名) / 吉川英治(著)
見出すように思ったとしても——これはちょうどだれかが堆肥たいひのなかにいつかなくした宝石を見るように思うのと同じことだよ。
(新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
後押しの二人もついて、山の如く堆肥たいひを積んだ車がしきりに通る。先ず小麦を蒔いて、後に大麦を蒔くのである。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「では本を閉じて……。午後からは農業の実習をやります。ちょうど運動場にひどく木の葉が散らかっているから、これをき集めて堆肥たいひの作り方を練習……」
錯覚の拷問室 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
農家の堆肥たいひの下にすんでいるボロキジというのがよい。餌屋で売っているのは、みなこのボロキジである。
江戸前の釣り (新字新仮名) / 三遊亭金馬(著)
今にもホスゲン瓦斯の堆肥たいひに似たにおいが鼻をつくかと心配されたが、四分たち、五分たっても、なんの変った臭もして来ず呼吸はふだんと変りなくたいへん楽であった。
空襲警報 (新字新仮名) / 海野十三(著)
農業には藁類の堆肥たいひがひつようであって、三種の麦稈などは、った年のものをごえにするよりも、さんざんに雨に打たせ煙にいぶして、もろくくだけやすくなったもののほうがよかった。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
養狐場を出たところで、私はまた牛舎の白い狭霧さぎりを、厩舎や豚舎の小雨を見た。しずくを含んだ鮮緑の広々とした牧草の平面を、また散在した収穫舎、堆肥たいひ舎、衝舎、農具舎、その急勾配のかく屋根を。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
堆肥たいひ過燐酸くわりんさんどすか
『春と修羅』 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
その掘っ立ての馬小屋は、そして、馬小屋であると同時に、そこですぐ堆肥たいひをも採れるようになっていた。
(新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
少しばかりの野菜は、懇意な農家に頼んで居ます。金になると云う上からは、恒春園はぜろです。毎年堆肥たいひ温床用おんしょうようの落葉を四円に売ります。四千坪の年収が金四円です。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
地靄立つ堆肥たいひの前の百合の花月の光に照らされにけり (六二頁)
文庫版『雀の卵』覚書 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
堆肥たいひ製造には持て来いの季節、所謂寒練かんねりである。夜永の夜延よなべには、親子兄弟大きな炉側ろばたでコト/\わらっては、俺ァ幾括いくぼおめえ何足なんぞくかと競争しての縄綯なわな草履ぞうり草鞋わらじ作り。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
月の夜の堆肥たいひの前の百合の花ぞや野風呂の湯気にかがむは
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
月の夜の堆肥たいひの靄に飛ぶ蛍ほつほつと見えて近き瀬の音
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)