因業いんごふ)” の例文
「いや知つて居るよ。公儀御鞍打師の辻萬兵衞は、やかましいのと因業いんごふなこと、そして弟子の仕込みのうまいので名題の男であつた」
結構な心掛で、詩人ダンテがその傑作のなかで、因業いんごふな家主を地獄におとした事を考へると、岡野氏が馬の顔を士官に似せたのは思ひ切つた優遇である。
また慾にかわいて因業いんごふ世渡よわたりをした老婆もあツたらう、それからまただ赤子に乳房をふくませたことの無い少婦をとめや胸に瞋恚しんいのほむらを燃やしながらたふれた醜婦もあツたであらう。
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
あの娘はまたどうでも厭だと言つて、姉に代れとまでねてるんだけど、……姉はまたどうでもいゝツて言つてるんけど……どうしても千代でなくては聽かんと言つてる相だ。因業いんごふ老爺おやぢさねえ。
姉妹 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
「自業自得で因業いんごふな病氣にかかつて、さ、入らないおかねまでつかはせたんですよ!——その衣物きものだツで、拵へて貰つたんだらう!——あすこに掛つてる白い首卷きだツて、買つて貰つたんだらう! 圍ひ者氣取りで、三味線など彈いて!」
代々の因業いんごふで、人から怨まれて居るから、黄金の牛は石の牛になつたんださうで、土藏の床下から、ひと握りの石ころが出て來ましたよ
何しろひやツこくなつた人間ばかり扱ツてゐるせゐか、人間が因業いんごふに一酷に出來てゐて、一度うと謂出したら、首が扯斷ちぎれてもを折はしない。また誰が何んと謂ツても受付けようとはせぬ。
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
「一方から評判の良い割に、因業いんごふ爺い扱ひをされるのはその爲で、塀外に澤庵石をブラ下げたのだつて、何んの禁呪まじなひかわかつたものぢやありません」
出迎へたのは五十五六の老母、それは殺されたお園の養ひ親で、おまきといふ因業いんごふな女——と八五郎は心得てをります。
「目の惡い男 、因業いんごふで強慾で、氣が小さくて、恐ろしく行屆く男、——小橋屋小左衞門ともあらうものが、手許を空にして、貸し付ける筈はない」
因業いんごふなやうでも父親に違ひないし、眼の不自由な者をたつた一人捨てて、死にも逃げもならない——とかう言ひます
「あ、因業いんごふ佐野喜の親爺か、この春の火事で、女を三人も燒き殺したうちだ。下手人が多過ぎて困るんだらう」
困つたことに、小間物屋の市之助、仕入れの金に困つた上、昔の借金を催促さいそくされて、柳町の金六郎といふ、名題の因業いんごふな金貸しから、十兩といふ金を借りた。
殺されたのは、雜司ヶ谷きつての大地主で、寅旦那といふ四十男、けち因業いんごふで、無悲慈で亂暴だが金がうんとあるから、殺されたとなると世間の騷ぎは大きい。
「後家のお嘉代といふのが荒物屋をやつて、内々は高利の金まで廻してゐるといふ名題の因業いんごふ屋だらう」
「主人の官兵衞は——死んだ者の惡口を言ふわけぢや無いが、因業いんごふで慾が深くて、助手すけべいで強情で」
因業いんごふで女癖が惡くて、殺された若い番頭の香之助などは、三代前から唯で働かされて、何時まで經つても嫁も貰つてやらず、暖簾のれんもわけてやらず、腐りきつて居たさうですよ
因業いんごふで通つた宗太郎、町人をいぢめて、充分金は出來たといふ話ですが、跛足ちんばで變屈者で、一二年越し口説き廻され乍ら、お品はどうも受け容れる氣になれない相手だつたのです。
「言つたよ、待つたなしと言つたに相違ないが、其處を切られちや、此大石たいせきが皆んな死ぬぢやないか。親分子分の間柄だ、そんな因業いんごふなことを言はずに、ちよいと此石を待つてくれ」
主人は、因業いんごふ禿げ頭で、恐ろしく達者で、釣が好きで、五十年輩の徳兵衞。
二たまはりほどで治つて、相變らず因業いんごふな稼業を續けながら、細工物などを樂しんで居りますが、お盆が近くなつて、帳面の調べが頻繁になるにつれて、番頭仲左衞門と、主人五郎次郎の仲に
「殺された主人は因業いんごふで、娘のお萩は綺麗で、甥の音次郎は美男で——」
「叶屋重三郎は、谷中三崎町で、寺方と御家人を相手に因業いんごふな金貸しを始め、鬼とか蛇とか言はれながら、この十二三年の間に、何萬兩といふ身上をこさへたのは、親分も知つてゐなさる通りだ——」
銭形平次捕物控:130 仏敵 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
「成程、珍らしい因業いんごふだ」
「あ、あの因業いんごふ家主の」