唐桟たうざん)” の例文
旧字:唐棧
お吉は小作りなキリリとした顔立の女で、二人の田舎娘には見た事もない程立居振舞が敏捷すばしこい。黒繻子くろじゆすの半襟をかけた唐桟たうざんの袷を着てゐた。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
唐桟たうざんの半天をひつかけた男は、煙草の煙にむせながら、思はず又苦笑を洩らしたが、鉄火な相手はそんな事に頓着する気色けしきもなく、手酌でもう一杯ひつかけると
鼠小僧次郎吉 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
唐桟たうざん揃ひの淡泊あつさりづくりに住吉張の銀煙管おとなしきは、職人らしき侠気きほひの風の言語ものいひ挙動そぶりに見えながら毫末すこし下卑げびぬ上品だち、いづれ親方〻〻と多くのものに立らるゝ棟梁株とは
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
亀甲綛きつかふがすりの書生羽織に、しま唐桟たうざんを重ね、袖だゝみにして折り懸け、長襦袢ながじゆばんの色の紅梅を見るやうなは八口やつくちのところに美しくあらはれて、朝に晩に肌身に着けるものかと考へると
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
唐桟たうざんの単衣を一まい呉服屋さんにたのんで、こしらへてもらひました。鳶の者だか、ばくち打ちだか、おたなものだか、わけのわからぬ服装になつてしまひました。統一が無いのです。
津軽 (新字旧仮名) / 太宰治(著)
かたの如く結城ゆふき単衣物ひとへものに、八反の平ぐけを締めたのが、上に羽織つた古渡こわた唐桟たうざんの半天と一しよに、その苦みばしつた男ぶりを、一層いなせに見せてゐる趣があつた。
鼠小僧次郎吉 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
色のめた唐桟たうざんの風呂敷包をくびへかけの、洗ひざらした木綿縞もめんじまに剥げつちよろけの小倉こくらの帯、右の小鬢こびん禿はげがあつて、あごの悪くしやくれたのせえ、よしんば風にや吹かれ無えでも
鼠小僧次郎吉 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)