呼声よびごえ)” の例文
旧字:呼聲
赤白マダラの犬は、主人の呼声よびごえを知らぬふりで飛び跳ねながら、並樹土堤から、今度は一散に麦畑の中へ飛び込んで来た。
麦の芽 (新字新仮名) / 徳永直(著)
三里という呼声よびごえも、どうやら余計に踏んで来たように覚えた頃、一行は断崖下に大河の横たわるのに行詰った。
壁の眼の怪 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
「博物もの」の中には「かえるの話」とか「の一生」とか「春の呼声よびごえ」とかいう風なものがある。
科学映画の一考察 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
鷺太郎は、その突調子もない呼声よびごえに、思わず来過ぎたその少女の方を振かえって見ると
鱗粉 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
呼声よびごえから、風体なり恰好かっこう、紛れもない油屋あぶらやで、あのあげものの油を売るのださうである。
雨ばけ (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ぼう、ぼう……という低い笛の音は、濃い霧の彼方かなたから訴えるようにむせぶように淋しく響いて来る。場合が場合だけにその音色は、まるで地獄の呼声よびごえのようにさえ思われるのだった。
流血船西へ行く (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
我れは知らねど、さもあらばなんとせん。果敢はかなき楼閣を空中にえがく時、うるさしや我が名の呼声よびごえそでなにせよかにせよの言付いひつけに消されて、思ひこゝに絶ゆれば、うらみをあたりに寄せもやしたる。
軒もる月 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
珠運さま珠運さまと呼声よびごえ戸口にせわし。
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)