口端くちは)” の例文
人の口端くちはにも笑われぐさだ。恥ある侍ふたり刺しちがえて、鎌倉殿へ、ご偏頗なお仕打のお返しをして見しょうか。……いや待て。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
悪いうわさの口端くちはに広まらぬようにと、ずいぶん気をつかってでござりまするが、あれこそまったく女地獄、このごろではどういう素姓の者やら
「ほんに此れは人の口端くちはばかりではなさそうな……したがわしの思うには、いまの其方そちに何を言うても解るまいが、身分違いの色恋は、大てい幸福しあわせに終らぬものじゃ」
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
道徳の方からは、「貞女両夫にまみえず」なぞと睨み付けられているし、習慣の方からは世間の口端くちはという奴が「女にあれがあってはねえ」と冷たい眼で見詰められております。
鼻の表現 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
わけて近頃、出色しゅっしょくの男に、木下藤吉郎ともうす者……至って小身者の由ですが、何かにつけ、城下の領民たちの口端くちはによう名の出る男などおりまする
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そうしてそのまま猟奇りょうきともがら口端くちはに上って、色々な臆説の種になっているばかりである……という事実を、先生は多分、何かの雑誌か、新聞で御覧になった事でしょう。ハハア。
キチガイ地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
『何もまだ、考えておりません。とかく、人の口端くちははうるそうござる。足繁あししげく宅へお遊びに来られる事なども、お互の為、暫く、おつつしみくださらぬか』
濞かみ浪人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
するな。してくれるな。もし、世上の口端くちはにまでのぼるようになったら、それはかえって尊氏をあやううし、暗やみの兇刃以上な難儀を呼ぼう。わかったか
という呼び声が、一種の人気のようによく人の口端くちはにのぼった。若御料とは、千寿王への敬称である。たんに可憐であるためか。それとも別な何かであるのか。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
世の危うさが人の口端くちはにのぼりだすと、たれもがみな、同じようなことをいうものではある。——高氏は薄ら笑った。そして敢てにも、自身をにおいていた。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「それにはちがいありません。けれど公知は、人の口端くちはなどに乗せられて、申すのではありませぬ」
それに、いくら年たあいだにせよ、なお老木おいぎにも色香はある。おたがい、ひとの口端くちはに誤られぬよう、会うのも、人中こそよけれじゃ。——おもと、あのふすまを開けてくれい
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
が、このことがあってから、ふたりの恋は、あらわに、人の口端くちはにのぼって来た。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いま、その袈裟の身に凶事があって、人びとの口端くちはにかの女の名が争っていわれ出すや、かれもまた、盲恋もうれんの窓を放って、まるで自分のことみたいに眼色をかえ、人びとの中へ割りこんでいた。