)” の例文
おれの位置はいま滑稽こっけいちゅうぶらりんを描いているが、しかし秋夜の大気をこうしてひとりめしてみたのは悪い気持でもないと思う。
心臓を叩き抜かれた、墓場にいるはずの三伝が蘇ったなんて、なァるほどこのむじなども、利得金をひとりめにしようとして、芝居を仕組んでいるな。
地虫 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
この池を独りめ、得意のていで、目も耳もない所為せいか、じっと視める人の顔の映った上を、ふい、と勝手に泳いで通る、通る、と引き返してまた横切る。
海の使者 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お前はまるで、この宇宙のあらゆる財宝を、ひとりめにしているかのようだ。憂愁ゆうしゅうでさえ、お前にとってはなぐさめだ。悲哀ひあいでさえ、お前には似つかわしい。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
「政府ばかりが外国貿易の利益をひとりめにする法はないか。」と香蔵はくすくすやる。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「中の野郎が五千兩一人めにしたと思ひ込んで、腹を立てゝ居るかも知れませんね」
自分がこれほどの宝物をひとめにしていること、世にこれほどの美女がいることを知っているのは自分だけで、当人さえもそれをはっきりとは知っていないらしいことを思うと
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
私はひとりとなって後、いよいよ巨万きょまんの富をひとりめするつもりで屋敷を後にして水鉛の埋蔵まいぞうされている場所へ入ったが、それは私の思いちがいで、本当の埋蔵場所ではなかった。
時計屋敷の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)