前輪まえわ)” の例文
お婆さんはしきりに遠慮をしました。けれどもとうとう紅矢の親切な言葉を断り切れず、鞍の前輪まえわに乗せられて都の方へ連れて行かれました。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
首桶の内の物は、夏なのでくさらぬように、前夜、細心なふせぎをほどこし、それは馬の前輪まえわに結いつけて、あじろ笠、法衣ころも姿の馬の背だった。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
半之丞は御墨付を入れた大事の文箱を、くら前輪まえわに添えてしかと押えたまま、黒助の指さす方を見やります。
判官は今は仕方なく、一人落ちのびようとしたところへ、乗りつけてきた一騎があった。馬を並べると、むんずと組みついてきた敵を、判官は鞍の前輪まえわに押しつけた。
と、青母衣あおほろを引き纏い、黒馬に乗った四、五十騎の武士が、旅人らしい三人の男女を、引っ捕らえんと騒いでいる。多勢に無勢やがて三人は、馬の前輪まえわに掻き乗せられた。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
山三郎もかねて用意に鉄砲を鞍の前輪まえわに着けて来ましたから、互に鉄砲同士となってぴったり身構をしましたが、此の時に粥河圖書はとてもかなわんと心得たと見え、鉄砲をからりっと投げ出し
実盛は、郎党の首を前輪まえわにひき寄せると、頸をかき切った。目前に、家来の討たれるのを見た光盛は、実盛の左手に寄ると、鎧の草摺くさずりを引きあげて、ぐいと刀を二度突きさした。
「——馬の足の届くまでは、手綱をゆるめて泳がせよ。手綱強めて、誤ちすな。尾口沈まば、前輪まえわにすがれ、水あし急にふさがれなば、馬の三頭さんずに乗下がり、鞍つぼ去って水を通せ」
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
山三郎はぜん申す剣術の名人で、身構えに少しも隙がありませんから圖書はこれはとてかなわんと心得て、卑怯にも鞍の前輪まえわに付けて参った種が島の短筒に火縄を附けたのを取出して指向さしむけました。
江戸でもとめた馬の前輪まえわへ、妹お霜の骨をつけ
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
熱田の宮を出ると、それまで、疾風の如くであった信長の態度は、どこか緩々かんかんたる余裕を示し、駒の背へ、横乗りに身をのせ掛けて、鞍の前輪まえわと後輪へ両手をかけながら揺られて行った。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)