前差まえざし)” の例文
「くそッ——」とばかり、十手をこうに飛びかかッてゆくと、周馬はまたも五、六歩逃げて、キラリと前差まえざし小太刀こだちを抜いた。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
相手にする値うちもないように、浪人の男は、珊瑚を袱紗ふくさにくるむ、前差まえざしをギッとたばさむ、長い蝋色鞘ろいろざやを左にさげる。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、前差まえざしの短刀を、抜くがはやいか、老先生の脾腹ひばらを目がけて、つかも、こぶしも、突き通れと、刺し込んだ。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
手をつかえているのは、人品はいやしくないが、縒々よれよれになった帷子かたびらを着て、貧しげな前差まえざし一本を帯びた浪人で、彦兵衛よりは年もずっとっている民谷銀左衛門であった。
鍋島甲斐守 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
清十郎のぶらんとしている手の先をつまんでぐっと上げ、同時に、前差まえざしの短い刀を抜いていた。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
黒羽二重くろはぶたえの袖はあおいのかげ紋、装剣そうけんの美をちりばめた前差まえざしつかに、遠い星の光が吸われている。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いきなり前差まえざし小刀しょうとうへ手をかけたと思うと、ヤッ——とするどい声と、そして、刀をパチンとそのさやへ納める音と殆ど一緒に白い光が、小茶ちゃんの持っていた手と手のあいだを
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
前差まえざし小柄こづかをキッと逆手に、抜くも矢庭、いきなりかれの腕首に斬りつけましたが
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
長い野太刀をこじりだかに差し込み、鎖鎌くさりがま前差まえざしに帯びている眼の怖い男だった。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さては! と感じたので、晴季は前差まえざしの小太刀をぬいて、ピュッと一
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
片手に巻き込んだ捕縄を、いきなり前差まえざしで切って払った。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
老先生は、もう、右の手に、短い前差まえざしを抜いていた。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)