刺戟性しげきせい)” の例文
にかわはいつも溶けていなければならないから、夏冬とも火鉢に掛けてあり、——したがって家の中にその刺戟性しげきせいの強い匂いの絶えることはなかった。
季節のない街 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そいつを鼻にした広太郎が、思わずハッハッと喘いだのは、煙りに含まれている刺戟性しげきせいのにおいが、一時に広太郎の愛欲を、クラクラとかき立てたからである。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
彼はこの女が若々しい自分の血に高い熱を与える刺戟性しげきせいあやをどこにも見せていないのを不思議に思った。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
木立こだちの間には白けた夏の夜のそらが流れ、其処そこにはまた数限も無い星がチラ/\またたいて居る。庭の暗の方から、あまい香や強い刺戟性しげきせいの香が弗々ふつふつと流れて来る。山梔子くちなし、山百合の香である。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
余り技巧をらさぬところに実用価値があるからな。それはこうだ。番茶を熱く濃く出して、唐辛子とうがらしを利用して調味すること、ただそれだけの手順で結構刺戟性しげきせいに富んだ飲物が得られる。
何か、わめく声がする。胡椒臭こしょうくさい、刺戟性しげきせい瓦斯ガスが、かすかに、鼻粘膜びねんまくを、くすぐった。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
私達の味覚は嗅覚だの聴覚だのと一緒に漸次だん/″\繊細きやしやに緻密になつて来たに相違ないが、其の一面にはお互の生活に殆どゆつくり物を味ふといふ程の余裕ゆとりが無くなつて、どうかすると刺戟性しげきせいのもので
茸の香 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
念入ねんいり身仕舞みじまいをした若い女の口から出る刺戟性しげきせいに富んだ言葉のために引きつけられたものは夫ばかりではなかった。車夫も梶棒かじぼうを握ったまま、等しくおのぶの方へ好奇の視線を向けた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)