別乾坤べつけんこん)” の例文
ひとり坐幽篁裏ゆうこうのうちにざし弾琴きんをだんじて復長嘯またちょうしょうす深林しんりん人不知ひとしらず明月来めいげつきたりて相照あいてらす。ただ二十字のうちにゆう別乾坤べつけんこん建立こんりゅうしている。この乾坤の功徳くどくは「不如帰ほととぎす」や「金色夜叉こんじきやしゃ」の功徳ではない。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
さればかの明眸めいぼう女詩人ぢよしじんも、この短髪の老画伯も、その無声の詩と有声のぐわとに彷弗はうふつたらしめし所謂いはゆる支那は、むしろ彼等が白日夢裡はくじつむり逍遙遊せうえうゆうほしいままにしたる別乾坤べつけんこんなりと称すべきか。
これ覇気はきある東北人士のおりおり用いたもう一拶である。はいはい、これには一言もないようなものだが、実はこの沢この野山に、雪の積もって寒ういくらいは、想像の及ばぬほどの別乾坤べつけんこんでもない。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
先生が独造の別乾坤べつけんこん、恐らくは是よりまつたからん乎。古人曰「欲窮千里眼更上一層楼きはまらんとほつすせんりのめさらにいつそうろうをのぼらん」と。
「鏡花全集」目録開口 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ゴオテイエが娘の支那シナは既に云ひぬ。José Maria de Heredia が日本もまた別乾坤べつけんこんなり。簾裡れんりの美人琵琶びはたんじて鉄衣の勇士のきたるを待つ。景情もとより日本ならざるに非ず。