冷々れいれい)” の例文
いかなる兇暴な殺刃でも、冷々れいれいとして騒がずに、その呼吸の支度をしている間には、容易に、斬ってかかり得ないものだ。
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
身のうちに温味があるのかと思うような冷々れいれいと冴えかえった感じで、この母胎なら、どんな向う見ずな生命でも、とうてい宿りようがなかろうと思ったからである。
うすゆき抄 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
あの某なるものの息女などを天下の秀才水島寒月の令夫人とあがめ奉るのは、少々提灯ちょうちんと釣鐘と云う次第で、我々朋友ほうゆうたる者が冷々れいれい黙過する訳に行かん事だと思うんだが
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
だが、左膳は木石ぼくせき——でもあるまいが、始終冷々れいれいたる態度をとって、まるで男友達と一つ屋根の下に起き伏している気持。左膳の眼には、お藤は女とはうつらないらしいので。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
竹杖かろげに右手めてに取り直し、血にかっしたる喜三郎の兇刃に接して一糸一髪いっしいっぱつゆるめず放たず、冷々れいれい水の如く機先を制し去り、切々せつせつ氷霜ひょうそうの如く機後きごを圧し来るに、音に聞えし喜三郎の業物わざもの
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
綱雄は冷々れいれいとして、はい、参りましょう。
書記官 (新字新仮名) / 川上眉山(著)
だがお銀様は冷々れいれいとして
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
と、引いた途端に、杖は鞘のように、スルリと抜けて、虚無僧の手には、冷々れいれいたる隠し刀の抜身が残った。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
右近は、こみ上げてくる笑いを、冷々れいれいと吐き出していた。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
竜之助は冷々れいれいたるもの。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
余りにいたましかったのは、福知山方の極度の失望で、藩主松平忠房はじめ、並居る諸士、城下の群集もひっそりとして、冷々れいれい氷の山か、死人の群集としか見えない
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、固い言葉で、続けざまに呼び立てて入ったが、深い闇は冷々れいれいとなんの答えも与えない。奥のほうからガアーンと返ってくるのは、おのれの口真似まねをする穴山彦あなやまびこ
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
明邪めいじゃ御本体のわからぬ無名の石神様は、身に甲冑かっちゅうをつけ手に鉾らしいものを持ち、数百年の塵をあびて、顔容がんようおそろしげに、足元で浅ましい狼狽うろたえざまをしているふたりの人間どもを、冷々れいれい
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、口のうちで返辞へんじをしたが、冷々れいれいと、あらぬかたへひとみをむけている伊那丸いなまるの顔を見ると、どうも、いいにくそうにして、貴公きこうがいいたまえ、イヤおまえがいえ、とたがいになすり合っているばかり。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
冷々れいれい水のごとしというが、水ほどな揺らぎもない。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)