冥途よみじ)” の例文
冥途よみじつともたらし去らしめんこと思えば憫然あわれ至極なり、良馬りょうめしゅうを得ざるの悲しみ、高士世にれられざるの恨みもせんずるところはかわることなし、よしよし
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
その特異なアクセント、すすり泣くような実感的な哀愁、冥途よみじの妖鬼の叫びを思わせる物凄い表情は、忘れようとして忘れることの出来ない、讃之助の古い記憶を揺り動かします。
葬送行進曲 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
赤城家に目を附けさせなば、何かに便たよりよかるべしと小指一節喰い切って、かの血のあとを赤城家の裏口まで印し置きて、再びくだんの穴に入り冥途よみじを歩みて壇階子に足踏懸くれば月明し。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
不覚なる者共かな、誠の志があるなら、命を長らえて後世をとむろうてくれたらよいのに、左様な早まったことをされては、冥途よみじの障りとなるばかりである、某とても助けてさえ戴けるなら
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
身体は元より命まで殿様に差上げている気だから、死ぬのは元より覚悟だけれど、是まで殿様の御恩に成った其の御恩を孝助が忘れたと仰しゃった殿様のお言葉、そればかりが冥途よみじさわりだ
低音部の不気味な強奏フォルテ、それは冥途よみじの鐘の音になぞらえたものでしょう。
死の舞踏 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
敵の行方ゆくえが知れない時は、五年で帰るか十年でお帰りになるか、幾年掛るか知れず、それに私はもう取る年、明日あすをも知れぬ身の上なれば、此の悦びを見ぬ内帰らぬ旅におもむく事があっては冥途よみじさわ