元旦がんたん)” の例文
それが元旦がんたんの夕方ちかくなると、ああ、もう日が暮れるのにと、どうしていいかわからない物足りなさが憂鬱ゆううつをもってくる。
旧聞日本橋:08 木魚の顔 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
その次は今から五年ばかり以前、正月元旦がんたんを父母の膝下ひざもとで祝ってすぐ九州旅行に出かけて、熊本くまもとから大分おおいたへと九州を横断した時のことであった。
忘れえぬ人々 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
そうして生活もやや安定して来たころのある年の正月元旦がんたんの朝清らかな心持ちで起床した瞬間からなんとなく腹の立つような事がいろいろ目についた。
自由画稿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
元旦がんたん、二日、三日、四日は遊んで暮してしまった。昼も夜も、ことごとく遊びである。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
元旦がんたんの初日の出を、伊豆いず近海におがみ、青空に神々こうごうしくそびえる富士山を、見かえり見かえり、希望にもえる十六人をのせた龍睡丸りゅうすいまるは、追手おいての風を帆にうけて、南へ南へと進んで行った。
無人島に生きる十六人 (新字新仮名) / 須川邦彦(著)
おそれながら、一年の計は、元旦がんたんにあるといいます。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
元旦がんたんだからというのでつい医者を呼ばなかったばかりに病気が悪化するといったような場合もありうるであろう。
自由画稿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
大伝馬町四丁目(この一町だけとおりはたご町)大丸呉服店にては一月一日表戸を半分おろして、店を大広間として金屏風きんびょうぶを立てまわし、元旦がんたん一日はおよそ(そのころで三百人以上)三、四百人の番頭
あわれ 太るも (元旦がんたん試作)
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
正月元旦がんたんというときっときげんが悪くなってにがい顔をして家族一同にも暗い思いをさせる老人があった。
自由画稿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
暴風の跡の銀座ぎんざもきたないが、正月元旦がんたんの銀座もまた実に驚くべききたない見物みものである。
銀座アルプス (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
一九一〇年の元旦がんたんにこの火山に登って湾を見おろした時には、やはりこの絵が眼前の実景の上に投射され、また同時に鴎外おうがいの「即興詩人」の場面がまざまざと映写されたのであった。
青衣童女像 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)