やと)” の例文
かうして三人が自動車をやとつて近い郊外へまで行つて、工事施行の場所を一巡して会社へ帰つたのがもう四時を余程過ぎた頃であつた。
瘢痕 (新字旧仮名) / 平出修(著)
停車場ステーションで車をやとってうちへ急ぐ途中も、何だか気がいらって、何事も落着いて考えられなかったが、片々きれぎれの思想が頭の中で狂いまわる中でも
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
樵夫そまやとふてぼくさがす、このくら溪底たにそこぼく死體したいよこたはつてる、東京とうきやう電報でんぱうつ、きみ淡路君あはぢくんんでる、そしてぼくかれてしまう。
湯ヶ原より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
彼女が軽い塗下駄の足を運んでいる銀座のまちを目に浮かべている間に、彼女のやとったタキシイがどこをどうすべっていたかも知れないのであった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
『枕山詩鈔』に「中秋。横山懐之、県晴峰あがたせいほう、中茎孔通ト同ジク墨水ニ遊ビ月ヲ棹月楼とうげつろうニ賞ス。夜半舟ヲやとツテ帰ル。」
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
本書内に開列懇請する所は、生らこれを思うこと累日るいじつ、多方に策を求む。横浜にありては、かつて商漁の船隻をやとい暗夜に乗じて貴船に近づかんと欲す。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
人夫をやとって、西山峠を越えた、妙法寺の裏から、去年とは違った道——北海とも、柳川やかわ通りともいうそうだ——を登った、そうしてデッチョウの茶屋の前で、去年の登り道と一ツに合った。
白峰山脈縦断記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
手前は舟をやとうて芝浦へ投網とあみに参りましてな、その帰り途でござった、浜御殿に近いところで、見慣れぬ西洋型のバッテーラが石川島の方へ波を切って行く、手前の舟がそれとり違いざま
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
女連は大方は一度か二度以上口を利合ききあった人達であったが、それがいずれも、式のあとの披露ひろうの席に、酌や給仕をするためにやとわれて来たのであった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「玉川あたりどうですの。網船をやとって一日楽しく遊びましょう。私もしばらく皆さんにお目にかからないわ。ぜひやりましょう。私通知出すわ。」
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
漁船などをやとつて、××会の同志の若い人達六七人と、若鮎の取れる××川に遊んでの帰り、郊外にあるI—子の家へ三四の人を誘つて行つた頃には
草いきれ (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)