作為さくい)” の例文
旧字:作爲
春の雪はきえやすきをもつて沫雪あわゆきといふ。和漢わかんの春雪きえやすきを詩哥しいか作為さくいとす、これ暖国だんこくの事也、寒国の雪はふゆ沫雪あわゆきともいふべし。
ただ先生のはっきりしたご決意と自分に対する愛情とが結びついて、何の作為さくいもなくそんな言葉となってあらわれたまでだ。
次郎物語:04 第四部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
看よ、今日においてすら、なお長白山頭の雲を踏み破り、馬を呉山の第一峯に立て、東洋に新帝国を作為さくいするなどの迷夢を抱く者あるに非ずや。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
「黙れ、黙れ! 思うところあってか故意に勝ちをゆずったと見たぞ。作為さくいは許さん! もう一度森へかかれッ!」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
一触いっしょくしてタイタニックを沈めた氷山である。華麗かれいな羅馬の文明を鉄蹄てってい蹂躙じゅうりんした北狄ほくてき蛮人である。一切の作為さくい文明ぶんめいは、彼等の前に灰の如く消えて了う。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
宮永町の木賃宿梅の家には、猿曳の信吉と妹のお浜が、何んの作為さくいもなく、すこぶる平和な顔で二人を迎えたのです。
どうも罪な作為さくいをしたもので、つまりこれが後世の「忠臣蔵」の中に戯作化され、いよいよ好色漢師直の名を、百代に高からしめる所以ゆえんとなったものである。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
初めは確かに、弟の死を悲しみ、その首や手の行方ゆくえいきどおろしく思いえがいているうちに、つい、妙なことを口走ってしまったのだ。これは彼の作為さくいでないと言える。
狐憑 (新字新仮名) / 中島敦(著)
私たちは逆にこういいたい、台所で手荒く使えるような品だから、きっとどこか健実な所があろう。貧相な店に置かれるような安物だから、作為さくいに傷つかずに済んでいよう。
苗代川の黒物 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
この点の相違を考えるとき、なにかそこに或る作為さくいが盛られているとは気付かないのか
不思議なる空間断層 (新字新仮名) / 海野十三(著)
お縫の場合は、作為さくいや無理な闘争によるものでなく、自然のままに、かの女の思いがかなったのである。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
小西先生は良寛和尚りょうかんおしょうを思わせるような風格の人で、その言葉や動作の中に作為さくいのないユーモアがあふれ、それが話の内容にぴったりしていて、この日の講義としては、あつらえ向きだった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
この紛々ふんぷんたる秀吉非難が、滝川や佐久間などの徒の作為さくいから生じたものであることは、充分、承知していたが、勝家はなお、この空気をもって、爾後じごの形勢をぼくす上に、自己に有利なものとして
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
せっかくな古典もこんな分りきった作為さくいろうしたりするものだから、後世の学者に「太平記は信ずるに足らず、史料に益なし」などとほかの箇所まで全面的に無視されることもあったりしたのだが
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)