代赭色たいしゃいろ)” の例文
あとで気がついたのであるが、自分の足元から一尺と離れないところに幅二寸ほどの亀裂きれつができて、その口から代赭色たいしゃいろの泥水を
地異印象記 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
これは、からだが、うすい代赭色たいしゃいろで、甲は褐色であるからだ。アカウミガメの肉は、においがあって、食用にならない。
無人島に生きる十六人 (新字新仮名) / 須川邦彦(著)
ならや栗の葉はまったく落ちつくして、草の枯れた利根川の土手はただ一帯に代赭色たいしゃいろに塗られて見えた。田には大根の葉がひたと捨てられてあった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
代赭色たいしゃいろを帯びた円い山の背を、白いただ一筋の道が頂上へ向って延びている。その末はいつとなく模糊もこたる雲煙の中に没しているのが誘惑的である。
浅間山麓より (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
代赭色たいしゃいろの壁土と皮つきの丸太とで屋根低く建てられてあるそこの家は、住居というよりは仕事小屋であった。
銀河まつり (新字新仮名) / 吉川英治(著)
八ヶ岳の大きなのびのびとした代赭色たいしゃいろの裾野が漸くその勾配をゆるめようとするところに、サナトリウムは、いくつかの側翼を並行に拡げながら、南を向いて立っていた。
風立ちぬ (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
いや、ぬかるみのたまり水よりも一層あざやかな代赭色たいしゃいろをしている。彼はこの代赭色の海に予期を裏切られた寂しさを感じた。しかしまた同時に勇敢にも残酷ざんこくな現実を承認した。
少年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
向こうの松林には日光豊かにれ込みて、代赭色たいしゃいろの幹の上に斑紋を画き、白き鳥一羽その間にいこえるも長閑のどかなり。藍色の空に白き煙草たばこの煙吹かせつつわれは小川に沿いて歩みたり。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
翁が特に愛していた、蝦蟇出がまでという朱泥しゅでい急須きゅうすがある。わたり二寸もあろうかと思われる、小さい急須の代赭色たいしゃいろはだえPemphigusペンフィグス という水泡すいほうのような、大小種々のいぼが出来ている。
カズイスチカ (新字新仮名) / 森鴎外(著)
バルコニーの外は低い砂丘を一つ越して、青空にくっきりと限られた代赭色たいしゃいろ岩鼻岬いわはなみさき、その中腹の白い記念塔、岬の先端の兜岩かぶといわ、なだらかな弧を描いている波打ち際、いつも同じ絵であった。
暴風雨に終わった一日 (新字新仮名) / 松本泰(著)
この三枚の絵の描かれております、紙とも付かず皮とも付かぬ強靭きょうじん代赭色たいしゃいろのへなへなした物質が、今日の紙の祖先である紙草パピュルスというものであることは、すでに先程申し上げたかと思います。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
代赭色たいしゃいろの小鉢に盛り上がった水苔みずごけから、青竹箆あおたけべらのような厚い幅のある葉が数葉、対称的に左右に広がって、そのまん中に一輪の花がややうなだれて立っている。
病室の花 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
代赭色たいしゃいろの山坂にシャベルを揮う労働者や、雨に濡れて行く兵隊や、灰色の海のあなたに音なく燃焼して沈む太陽を見るときに、まだ私に残された強実な人生のひらめきに触れて心がおどる。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
代赭色たいしゃいろの海なんぞあるものかね。」
少年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)