人気ひとげ)” の例文
旧字:人氣
その代り人気ひとげのない薄明りの往来わうらいを眺めながら、いつかはおれの戸口へ立つかも知れない遠来の客を待つてゐる。前のやうに寂しく。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
樫の木は、冬でも小暗い蔭を門になげている。家はがらんと人気ひとげない。そこに、鎖につながれ、この斑の婆さん風な犬が私を見ている。
吠える (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
それで老母を初め細君娘、お徳までの着変きかえやら何かに一しきりさわがしかったのが、出てったあとは一時にしんとなって家内やうち人気ひとげが絶たようになった。
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
やつとその道の尽きるところまで来た。其処そこは自分達の今乗つて来たのとはちがふ別の汽車みちの踏切である。そして一層人気ひとげのない寂しい道へ自分達は出た。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
そのほかどっちを見ても、荒地は全く人気ひとげというものがなく、ただわずかに漂白さすらいのジプシーが二三いるくらいのものだ。これが日曜の晩に事件が起るまでの大体の状況だ。
宮は人気ひとげに押されておしまいになり、小さいお美しい姿をうつ伏せにしておいでになる。
源氏物語:38 鈴虫 (新字新仮名) / 紫式部(著)
人気ひとげもなげな猿の振舞よ)
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
君も見給ひし所ながら蘆の青やかに美くしくひたる河岸かはぎしに、さまで高からぬ灯火の柱の立てるなど、余りに人気ひとげ近きがばかりの世界のせきとも思はれがたさふらふよ。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
やっと晩餐のすんだ後、僕は前にとって置いた僕の部屋へこもる為に人気ひとげのない廊下を歩いて行った。廊下は僕にはホテルよりも監獄らしい感じを与えるものだった。
歯車 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
寂寥せきりょうとして人気ひとげなき森蔭のベンチに倚ったまま、何時間自分は動かなかったろう。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
僕は急に無気味になり、あわててスリッパアを靴に換えると、人気ひとげのない廊下を歩いて行った。
歯車 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
モスコオ河の上に脅かす様に建てられた冬宮とうきゆうも旅の女の心にはたゞあはれを誘ふ一つの物として見るに過ぎない。白い宮殿の三層目の左から二つ目の窓掛が人気ひとげのあるらしく動いて居た。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
人気ひとげのない道をって歩いて行った。
歯車 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)