互違たがいちがい)” の例文
けれども敬太郎の前に暖められた白い皿が現われる頃から、また少し調子づいたと見えて、二人の声が互違たがいちがいに敬太郎の耳にった。——
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
鳥屋とやは別当が薄井の爺さんにことわって、縁の下を為切しきってこしらえて、入口には板切と割竹とを互違たがいちがいに打ち附けた、不細工な格子戸をめた。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
船は小さし、どう突立つッたって、釣下つりさがって、互違たがいちがいに手を掛けて、川幅三十けんばかりを小半時こはんとき幾度いくたびもはっと思っちゃ、あぶなさに自然ひとりでに目をふさぐ。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
今の毛と重ね、爾々そう/\其通り後前あとさき互違たがいちがいに二本の毛を重ね一緒に二本の指でつまんで、イヤ違ます人差指を下にして其親指を上にして爾う摘むのです
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
次に自分がまた一つ頬張る。次にどてらがまた一つ頬張る。互違たがいちがいに頬張りっ子をして六つ目まで来た時、たった一つ残った。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ただし煩悶がなくなった時分には、また生き返りたくなるにきまってるから、正直に理想を云うと、死んだり生きたり互違たがいちがいにするのが一番よろしい。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
黒蛇の目にあざやかな加留多という文字とが互違たがいちがいに敬太郎の神経を刺戟しげきした時、彼はふと森本といっしょになって子まで生んだという女の事を思い出した。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
久しぶりに遊んで行こうかしらと云って、わざわざ乗って来た車まで返して、ゆっくり腰を落ちつけた。松本には十三になる女をかしらに、男、女、男と互違たがいちがいに順序よく四人の子がそろっていた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
骨ばかりこの世に取り残されたかと思う人の、まばらなひげ風塵ふうじんに託して、残喘ざんせんに一昔と二昔を、互違たがいちがいに呼吸する口から聞いたのは、少なくとも今が始めてである。の鐘はいんに響いてぼうんと鳴る。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)