二重廻にじゅうまわ)” の例文
たまに摺れ違う者が有れば二重廻にじゅうまわしに凍え乍ら寒ざむと震えて通る人相の悪い痩せた人達許りで、空には寒月が皎々と照り渡って居りました。
陳情書 (新字新仮名) / 西尾正(著)
そう言って、もう二重廻にじゅうまわしをひっかけ、下駄箱げたばこから新しい下駄を取り出しておはきになり、さっさとアパートの廊下を先に立って歩かれた。
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
頬冠ほおかむりに唐桟とうざん半纏はんてんを引っ掛け、綺麗きれいみがいた素足へ爪紅つまべにをさして雪駄せった穿くこともあった。金縁の色眼鏡に二重廻にじゅうまわしのえりを立てて出ることもあった。
秘密 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
首から下も見えぬけれど何だか二重廻にじゅうまわしを著て居るように思われた。その顔が三たび変った。今度は八つか九つ位の女の子の顔で眼は全く下向いて居る。
ランプの影 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
茶屋は幸にしてちがっていた。吉川夫婦の姿はどこにも見えなかった。えりに毛皮の付いた重そうな二重廻にじゅうまわしを引掛ひっかけながら岡本がコートにそでを通しているお延をかえりみた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
じじむさい襟巻えりまきした金貸らしいおやじが不満らしく横目ににらみかえしたが、真白まっしろな女の襟元に、文句はいえず、押し敷かれた古臭い二重廻にじゅうまわしのはねを、だいじそうに引取りながら、順送りに席をざった。
深川の唄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
田舎いなかの洋服屋でこしらえたその二重廻にじゅうまわしは、ほとんど健三の記憶から消えかかっている位古かった。細君がどうしてまたそれを彼女の父に与えたものか、健三には理解出来なかった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私は、こたつに足をつっこみ、二重廻にじゅうまわしを着たままで寝た。
(新字新仮名) / 太宰治(著)