二叉ふたまた)” の例文
森の中程で、道が二叉ふたまたになる。一方は真直に村へ、もう一方は、昔、明や菜穂子たちが夏を過しに来た別荘地へと分かれるのだった。
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
そして、柄の根元にはモントフェラット家の紋章が鋳刻されていて、引き抜くとはたしてそれが、二叉ふたまたに先が分れている火焔形の槍尖ランス・ヘッドだった。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
下から一間ばかりのところで梧桐は注文通り二叉ふたまたになっているから、ここで一休息ひとやすみして葉裏から蝉の所在地を探偵する。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
大蛇が二叉ふたまたの舌を出して鶏をのまうとしてるのなどだつたが、そのなかにときどき鼠の芸当のがあつて
銀の匙 (新字旧仮名) / 中勘助(著)
とうとう枝の二叉ふたまたに別れたところまで来ると、そこから別の枝に移って今度は逆に上の方へ向いて彼の不細工な重そうな簑を引きずり引きずり這って行くのであった。
小さな出来事 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
しかし自分が鉤のある念棒を用いていたというためでなく、本来は二叉ふたまたわかれた木の枝というものが、特別に霊の力があるもののように、我々の祖先には考えられていた。
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
木の枝に褪紅色たいこうしょくの栗の実が、今にも落ちそうにイガの外にはみ出している。私はそれを尖端せんたん二叉ふたまたになった棒切れでねじ折る。そしてそれを草履の下でんで栗の実を採り出す。
南向みなみむきの高い枝は既に紅いつぼみを着けているので、彼は二叉ふたまたの枝をえらんで折った。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それ等が交尾こうびをしながら、庇のところまで一緒いっしょに転がって来ては、そこから墜落すると同時に、さあと二叉ふたまたに飛びわかれているのだった。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
一抱えほどの幹と三抱えぐらいのとが根もとから二叉ふたまたになって幹にも枝にも更紗さらさ模様をおいたように銭苔ぜにごけがはえ、どす黒い葉のなかにいちめんに花がさいている。
島守 (新字新仮名) / 中勘助(著)
漸々ようよう二叉ふたまたに到着する時分には満樹せきとして片声へんせいをとどめざる事がある。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)