九尾きゅうび)” の例文
「そいつは変だ、俺のところへ来たのは、九尾きゅうびの狐が化けたような、凄い年増だ。——何か、恐ろしい行違いがあるに違いない」
その後の夜には喜平と銀蔵が九尾きゅうびの狐に食われかかったなどと、途方もないことを見て来たように云い触らす者も出来た。
半七捕物帳:43 柳原堤の女 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ただ、いちばんおしまいに来たのだけは、ふるとのさまのおきつねとそっくり、九尾きゅうびきつねでした。やもめさんはこれを聞くと大喜びで、猫に言いました
九尾きゅうびきつね玉藻たまもまえが飛去ったあとのような、空虚な、浅間しさ、世の中が急に明るすぎるように思われたでもあろう。
明治美人伝 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
九尾きゅうびの狐をめとったなどという馬鹿気たことも随分古くから語られたことであろうし、周易しゅうえきにも狐はまんざら凡獣でもないように扱われており、後には狐王廟こおうびょうなども所〻ところどころにあり
魔法修行者 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
小町 まあ、何と云う図々ずうずうしい人だ! 嘘つき! 九尾きゅうびの狐! 男たらし! かたり! 尼天狗あまてんぐ! おひきずり! もうもうもう、今度顔を合せたが最後、きっと喉笛のどぶえみついてやるから。口惜くやしい。
二人小町 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
すなわ鄭子ていし九尾きゅうびきつねいて愛憐あいれんするがごとくなるを致す。
牡丹灯籠 牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
今日こんにちでは大抵開墾されてしまって、そこには又新しい村がだんだんに出来たが、僕の少年時代にはなるほど九尾きゅうびの狐でも巣を作っていそうなすすき原で
探偵夜話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
すすきすらあまりえない、古塚の中から、真白まっしろうちぎを着て、九尾きゅうびに見える、薄黄の長い袴で玉藻たまもまえが現われるそれが、好評であったので、後に、歌舞伎座で、菊五郎が上演しようとし
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
それは九月のなかばから白面はくめん金毛きんもう九尾きゅうびの狐が那須の篠原しのはらにあらわれて、往来の旅びとを取りくらうは勿論、あたりの在家ざいけをおびやかして見あたり次第に人畜をほふり尽くすので
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
こういうと、僕の生まれ故郷の人間はひどく無知蒙昧のように思かれるかも知れないが、なにしろまだ明治十四五年頃の田舎のことで、しかもその近所には九尾きゅうびの狐で有名な那須野ヶ原がある。
探偵夜話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)