不向ふむき)” の例文
いわゆる洋服の普及を見てもわかるように、今まで町の人などの着ていたものは、一言でいうならば労働に不向ふむきであったのである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
最後にきたるお秀に関しては、ただ要領を一口でいう事ができた。お延から見ると、彼女はこの家の構造に最も不向ふむきに育て上げられていた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
わがまま勝手かってそだてられてたおこのは、たとい役者やくしゃ女房にょうぼうには不向ふむきにしろ、ひんなら縹緻きりょうなら、ひとにはけはらないとの、かた己惚うぬぼれがあったのであろう。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
一体に伊井蓉峰ようぼうの様に軽く動く人でモリエエルの様な大人物に扮するには不向ふむきである、マドレエヌに扮したベルテセルニイ夫人、アルマンに扮したルコント夫人
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
しかし市の有志家が何名か打ちそろって上京した時に、有名な政治家のある伯爵はくしゃくに会って、父の適不適を問いただしたら、その伯爵がどうも不向ふむきだろうと答えたので
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
嘉納さんもあなたはあまり正直過ぎて困ると云ったくらいですから、あるいはもっと横着をきめていてもよかったのかも知れません。しかしどうあっても私には不向ふむきな所だとしか思われませんでした。
私の個人主義 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「ええ外へ出る事なんか訳はありません。明日あしたからでも出ろとおっしゃれば出ます。しかし嫁の方はそうちんころのように、何でも構わないから、ただ路に落ちてさえいれば拾って来るというような遣口やりくちじゃ僕には不向ふむきですから」
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)