上顎うわあご)” の例文
あいつは犬の上顎うわあごと下顎に両手をかけて、メリメリと引き裂いたのに違いないが、なみなみの力でそんなことができるものだろうか。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
卑弥呼は長羅の腕の中から、小枝を払ったほこだちの枝に、上顎うわあごをかけられた父と母との死体が魚のように下っているのを眼にとめた。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
わたしは自分の舌が上顎うわあごに釘づけにでもなったくらいで、いやだといういの字も言うことができなかったのです。
「エ」でも日本の「エ」よりももっと舌に力を入れて言う「エ」と、舌を下げて上顎うわあごとの間を広くして言う「エ」とを区別するという風に、色々沢山違った母音を用いる。
古代国語の音韻に就いて (新字新仮名) / 橋本進吉(著)
よく自由になるので、二、三度手玉にとってほうったり、上顎うわあごと下顎を手で抑えて
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けっけとつばしぼって吐き出したが、最後の一ひらだけは上顎うわあごおくりついて顎裏のぴよぴよするやわらかいところと一重になってしまって、舌尖でしごいても指先きをき込んでも除かれなかった。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ある時は深山しんざんに迷い込みて数千すせんおおかみかこまれ、一生懸命の勇をならして、その首領なる老狼ろうろうを引き倒し、上顎うわあご下顎したあごに手をかけて、口より身体までを両断せしに、の狼児は狼狽ろうばいしてことごと遁失にげう
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
讃美歌をまたはじめようとしたが、からからに乾いた舌が上顎うわあごにくっついてしまった。一節も歌えなかった。この執拗しつような道連れが不機嫌におし黙っているのは、なにか不可解で、おそろしかった。
津田氏の上顎うわあごが全部ぶさいくな義歯なのを看破したからである。
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
三四郎の舌が上顎うわあごへひっついてしまった。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
かつての夜、猛犬の上顎うわあごと下顎に手をかけて、二つに引き裂いたばか力が、今、彼女の首を引きちぎったのだ。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
これが人間の咽喉のどから出る声か。内匠頭は、冷蔑れいべつの眼をっと与えた。だが、感じないのである、上野介は、片眼をつぶりながら、顔の半分を口と共にゆがめる癖がある。上顎うわあごの入歯を気にするのだ。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鼻の下の所から段をして、上顎うわあごと下顎とが、オンモリと前方へせり出し、その部分一杯に、青白い顔と妙な対照を示して、大きな紫色の唇が開いています。
屋根裏の散歩者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
小次郎は、犬の上顎うわあごと下顎へ両の手をかけて
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)