上下しょうか)” の例文
「もとよりのこと。仰せのごとき暴をなせば、上下しょうか怨嗟えんさをうけ、諸方の敵方に乗ぜられ、末代、殿の悪名はぬぐうべくもおざるまい」
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そうなると、普通の酒家以上に、く弁ずる上に、時としては比較的真面目まじめな問題を持ち出して、相手と議論を上下しょうかして楽し気に見える。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
何んと言う舌でしょう、越前守のやった一番無法なことは、ことごとく自身の発意と煽動だったことも忘れ、ようや上下しょうかの人心の去りかけた越前守を、裏切ろうとする甲斐守だったのです。
礫心中 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
機嫌きげんをとるために負けてさしあげるのは主君をあざむくへつらい武士です。風上かざかみにおけん。しかし、内藤君、君心あれば臣心あり。すべて君臣主従しゅじゅう貴賤きせん上下しょうかの別をわすれるものは乱臣らんしんぞく子ですぞ。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
上山を発してからは人烟じんえんまれなる山谷さんこくの間を過ぎた。縄梯子なわばしごすがって断崖だんがい上下しょうかしたこともある。よるの宿は旅人りょじんもちを売って茶を供する休息所のたぐいが多かった。宿で物を盗まれることも数度に及んだ。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
縦横に、前後に、上下しょうか四方に、乱れ飛ぶ世界と世界が喰い違うとき秦越しんえつの客ここに舟を同じゅうす。甲野こうのさんと宗近むねちか君は、三春行楽さんしゅんこうらくの興尽きて東に帰る。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
よく多年の艱苦かんく欠乏や隷属的れいぞくてき侮蔑ぶべつに忍耐して来た上下しょうかの実状を目撃しているせいにもよるが、もっと深い原因は、松平元康の通って来た今日までの経歴にあった。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けれどもこの結果に到着するまえにいろいろ考えたのだから、思索の労力を打算して、結論の価値を上下しょうかしやすい思索家自身からみると、それほど平凡ではなかった。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
上下しょうかを挙げて元禄十五年の思潮は、この義士処分論を焦点として、下は百姓、上は将軍家までが、その何っ方かに自身の思想を試みられているかのような状態だった。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)