一隅かたすみ)” の例文
暗いからわからぬが、何か釜らしいものが戸外の一隅かたすみにあって、まき余燼もえさしが赤く見えた。薄い煙が提燈をかすめて淡く靡いている。
一兵卒 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
マデレンのくろずんだ巨大な寺院じいんを背景として一日中自動車の洪水こうずい渦巻うずまいているプラス・ド・マデレンの一隅かたすみにクラシックな品位を保ってつつましく存在するレストラン・ラルウ
異国食餌抄 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
一隅かたすみには行き倒れや乞食の死んだのを埋葬したところもあった。清三は時には好奇ものずきに碑の文などを読んでみることがある。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
二階は十二畳敷二間ふたまで、階段はしごを上つたところの一間の右の一隅かたすみには、けやき眩々てら/\した長火鉢が据ゑられてあつて、鉄の五徳に南部のびた鉄瓶てつびん二箇ふたつかゝつて
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
オルガンが講堂の一隅かたすみ塵埃ちりに白くなって置かれてあった。何か久しぶりで鳴らしてみようと思ったが、ただ思っただけで、手をくだす気になれなかった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
テニスコートの線があきらかに残っていて、宿直室の長い縁側の隅にラケットやボールやネットが置いてあるのが見える。庭の一隅かたすみには教授用の草木が植えられてあった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
そして次の間へ行こうとしたのを、無理に洋燈ランプの明るいまぶしい居間の一隅かたすみに坐らせた。美しい姿、当世流の庇髪ひさしがみ、派手なネルにオリイヴ色の夏帯を形よくめて、少しはすに坐った艶やかさ。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
すぐ前の低いところの一隅かたすみに一つ。後に一つ。右に一つ。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)