一梃いっちょう)” の例文
馬上の士が一人、駕が一梃いっちょう、人々は、悉く脚絆掛けで、長い刀を差していた。茶店の前で立止まって、すぐ腰かけて、脚を叩いた。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
皆々打笑ひ、熊の皮を取り、十文字にさす竹入れ、小屋の軒に下げて見せ、且つ山刀一梃いっちょうを与へて帰らしむ。其後数日来ずと謂へり
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
そこには一梃いっちょうの猟銃がその銃口をパラソルの下の二人のほうへ向けて、横たえられてあった。猟銃は馬車の動揺につれてひどく躍っていた。
恐怖城 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
もなく横山町辺よこやまちょうへんの提灯をつけた辻駕籠つじかご一梃いっちょう、飛ぶがように駈来かけきたって門口かどぐちとどまるや否や、中から転出まろびいづ商人風あきうどふうの男
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そこの書類の詰まった一番奥にかねてマジャルドーのくれた新型の拳銃ピストル一梃いっちょうしまっておいたことを、ふとさっきから想い出していたからであった。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
八番の右は立場たてばと見えて坊さんを乗せたかご一梃いっちょう地に据ゑてある。一人の雲助は何か餅の如きものを頬ばつて居る。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
私はその後ある所でその鉄砲を一梃いっちょう見ました。もちろん新式の物ではあるけれどもあまり遠距離に達しない。到底合戦の時の間に合いそうには思われない。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
すると書斎の鴨居かもいの上に鳶口とびぐち一梃いっちょうかかっていた。鳶口はを黒と朱とのうるしに巻き立ててあるものだった。
死後 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
与八は郁太郎にかけていた片手を離して、帯につるしてあった一梃いっちょうの鉈にさわってお松に見せ
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
みなその気になって、さっそく支度にかかり、わずかばかりの粮米と鍋釜、手廻りの道具を入れた木箱一つ、斧一梃いっちょうを持って小舟に移り、渚をさがして、そこから島にあがった。
藤九郎の島 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
これを持って、家に帰って、へやに隠れていたまえ。不在らしく見せかけなくちゃいかん。二つともたまがこもってる。一梃いっちょうに二発ずつだ。よく気をつけて見ているんだ。壁に穴があると言ったね。
たれげた一梃いっちょう駕籠かごの前に、返り血やら自分の血やらで、血達磨ちだるまのようになりながら、まだ闘士満々としている、精悍せいかんそのもののような鶴吉が、血刀を右手にふりかぶり、左手を駕籠の峯へかけ
怪しの者 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それともう一つは私は拳銃をもう一梃いっちょう本邸の書斎に持っていた。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)