一枚いちめえ)” の例文
「いけねえ、いけねえ。そんな服装で這入へえれるもんか。ここへ親分とこから一枚いちめえ借りて来てやったから、此服こいつを着るがいい」
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そのうちにゃあ勝ちもした負けもした、いい時ゃ三百四百もにぎったが半日たあ続かねえでトドのつまりが、残ったものア空財布からさいふの中に富籤とみふだ一枚いちめえだ。
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
甚「の肉を食うと綿衣どてら一枚いちめえ違うというから半纒はんてんを質に置いてしまったが、オウ、滅法寒くなったから当てにゃアならねえぜ、本当に冗談じゃアねえ」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
なあ、おかみさん、その面の皮一枚いちめえひんめくる方が、慈善会よりよっぽど慈善ほどこしになるぜ。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
取返とりけえして、子供に着物の一枚いちめえも着せてえと思って、ツイ追目おいめに掛ったんだが、向後きょうこうもうふッつり賭博ばくちはしねえで、仕事を精出すから、何処どこへか往ってお久をめっけて来てくんナ
文七元結 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
やがて道端の茶店へ休むと——薄曇りの雲を浴びて背戸の映山紅つつじ真紅まっかだった。つい一句をしたためて、もの優しい茶屋の女房に差出すと、渋茶をくんで飲んでいる馬士まごが、おらがにも是非一枚いちめえ
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
下の皿を一枚いちめえ毀して置いたから、ず恋の意趣晴しをして嬉しいと思い、実は土間で腕を組んで悦んでいると、此のかゝさまが飛んで来て、わしが病苦を助けてえとあぶねえ奉公と知りながら参って
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
面白え、となった処へ、近所の挨拶をすまして、けえって来た、お源坊がお前さん、一枚いちめえ着換えて、お化粧つくりをしていたろうじゃありませんか。蚤取眼のみとりまなこ小切こぎれを探して、さっさと出てでも行く事か。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)