一向ひたぶる)” の例文
一向ひたぶるしんを労し、思を費して、日夜これをのぶるにいとまあらぬ貫一は、肉痩にくやせ、骨立ち、色疲れて、宛然さながら死水しすいなどのやうに沈鬱しをはんぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
一向ひたぶるに名声赫々かくかくの豪傑を良人おっとに持ちし思いにて、その以後は毎日公判廷にづるを楽しみ、かの人を待ちこがれしぞかつは怪しき。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
宮は男の手をば益すゆるめず、益す激する心のうちには、夫もあらず、世間もあらずなりて、唯この命をふる者を失はじと一向ひたぶるに思入るなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
起居ききょ振舞ふるまいのお転婆てんばなりしは言うまでもなく、修業中は髪をいとまだにしき心地ここちせられて、一向ひたぶるに書を読む事を好みければ、十六歳までは髪をりて前部を左右に分け
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
唯継は彼のものいふ花の姿、温き玉のかたち一向ひたぶるよろこぶ余に、ひややかにむなしうつはいだくに異らざる妻を擁して、ほとんど憎むべきまでに得意のおとがひづるなりき。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
一向ひたぶるに東上の日を待つほどに郷里にては従弟よりの消息を得て、一度は大いに驚きしかど、かかる人々の厚意にりて学資をさえきゅうせらるるの幸福を無視するは勿体もったいなしとて
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)