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そふく
見る者なかりしと
爰に
浪人體の
侍の身には
粗服を
纏ひ二月の
餘寒烈きに
羊羹色の
絽の羽織を着て麻の
袴を
穿柄の
解れし大小を
帶せし者
常樂院の表門へ進み
入んとせしが寺内の
嚴重なる
形勢を
慌て押止め然ば其段
今一應申上べしまづ/\御待下されと待せ置て
奧へ行き
暫時にして出來り然らば
其儘にて
對面有べしとの事なりと告れば伊賀亮は
然も有べしと
頓て
粗服のまゝ天忠に引れて本堂の
座敷へ到れば
遙の
末座に着座させられぬ
細君の
張氏より、
然も、
五つばかり
年少き
一少女、
淡裝素服して
婀娜たるものであつた。