がた)” の例文
ゆきなか紅鯛べにだひ綺麗きれいなり。のお買初かひぞめの、ゆき眞夜中まよなか、うつくしきに、新版しんぱん繪草紙ゑざうしはゝつてもらひしうれしさ、わすがたし。
寸情風土記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
清見潟きよみがたの風光むかしながらにして幾度となく夜半の夢に入れど、身世怱忙しんせいそうばうとしてにはか風騷ふうさうの客たりがたし。われ常にこれを恨みとしき。
清見寺の鐘声 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
そのわすがたあぢかされて、ことくが——たび思出おもひだしては、歸途かへりがけに、つい、かされる。——いつもかへとき日暮ひぐれになる。
高いものは食えない、料理の工夫は知らない、旧慣をありがたいものにして、自分たちはこれでよいのだとあきらめているからである。
味覚馬鹿 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
娘売らぬ親を馬鹿ばかだとは申しがたそろへども馬鹿ばか見たやうなものだとは申得まうしえられそろ婿むこを買ふ者あり娘を売る者あり上下じやうげ面白き成行なりゆきそろ
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
このとほりに器械觀測きかいかんそく結果けつか體驗たいけん結果けつかとは最初さいしよから一致いつちがたいものであるけれども、それを比較ひかくしてみることは無益むえきわざではない。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
樹下石上じゅげせきじょうの人だった。それゆえに、いくら想いを懸けたところで、届きがたい心地がして、同時に、自分のすさびかけた境涯も顧みられ
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それはとにかく、ソクラテスの偉大なるところは、徹頭徹尾、思い切って所信を披瀝ひれきした、その無遠慮な点に存する事をいながたい。
ソクラテス (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
その一方では、鈴子未亡人と森川森之助は、かれた二つの水のように、急速に接近し始めて、離れがたいものになって行く様子でした。
かたい、冷い薄縁の上に、くずおれて、じっとしていると、ひしひしと迫る夜気、地底の穴蔵の、墓場の様な、名状めいじょうがたき静けさ。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「このひとは、程度が高いそうですから。」いやな言いかたを、しやがる! 卑劣だ! 世の中で、一ばん救われがたい種属の男だ。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
△「わしはその大和路の者であるが、少し仔細あって、えゝ長らく江戸表にいたが、故郷こきょうぼうがたく又帰りたくなって帰って来ました」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
彼は怏々おうおうとして楽しまず、狂悖きょうはいの性は愈々いよいよ抑えがたくなった。一年の後、公用で旅に出、汝水じょすいのほとりに宿った時、遂に発狂した。
山月記 (新字新仮名) / 中島敦(著)
「御主人は御在宅か。拙者は仔細しさいあって姓名はここに申しがたけれど、京都をのがれて、旅に悩む者。御高名をお慕い申して……」
このドクダミははなはだ抜き去りがたく、したがって根絶こんぜつせしめることはなかなか容易でなく、抜いても抜いてもあとからえ出るのである。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
くだんごとけいの字も古く用ひたれば、おほかたの和文章わぶんしやうにも鮭の字を用ふべし、鮏の字はあまねくは通じがたし。こゝにはしばらく鮏にしたがふ。
がたおそろしさはいなづまごとこころうちひらめわたって、二十有余年ゆうよねんあいだ、どうして自分じぶんはこれをらざりしか、らんとはせざりしか。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
さげられしが此事一應加役方へ掛合の上ならでは吟味ぎんみに取掛りがたき儀なれどもかれが申し立て如何いかにも不便ふびんなりと思はれしかば大岡殿の英斷えいだん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
私はそれを恐れいとふやうに、また美しくも忘れがたい印象を自分の胸裡きようりに守るやうにして、妹の待つ湯の川の宿へと急ぎかへつた。
処女作の思い出 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
そのこたうけたまはらずば歸邸きていいたしがたひらにおうかゞひありたしと押返おしかへせば、それほどおほせらるゝをつゝむも甲斐かひなし、まことのこと申あげ
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
それは彼が何かがたい謎を発見し、解く前の楽しさに酔っているような場合に限って、必ずやって見せる一つの芸当げいとうだった。
ゴールデン・バット事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
鋼索こうさく化學用くわがくようしよ劇藥げきやく其他そのほか世人せじん到底たうてい豫想よさうがた幾多いくた材料ざいりよう蒐集中しうしふちうなりしが、何時いつとも吾人われら氣付きづかぬその姿すがたかくしぬ。
永久の傑作であるかうかを容易たやすく決しがたい物に一週三四回も国立劇場を使用する事は無法だ。又国立劇場は私利を営む性質の芝居で無い。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
自分には何物にも代えがたく思われるけさの出来事があったあとでも、ああ平気でいられるそののんきさはどうしたものだろう。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
マダしていこともあるだろう、なくていこともあるだろう、傍観者からこれを見たらばさぞがたいことに思うでありましょうけれども
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
わたしは、ここに霊薬れいやくっています。このくすりは、千まんかいくだいて、そのなかからさがした霊薬れいやくで、どんなものにもがた貴重きちょうしなです。
木と鳥になった姉妹 (新字新仮名) / 小川未明(著)
我々は牛肉ぎうにくくらへども我々の邸内ていないに在る物捨て塲に於て牛骨を見る事はがたし。是自家庖廚はうちうの他に牛肉販賣店はんばいてん有るに由る。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
彼は鼻の下に薄い髭をたくわえていた。優しいながらもどこやらに犯しがたい威をもった彼の眼のひかりに打たれて、千枝松は土に手をついた。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「むかしから頼みにならない事を、君寵くんちょう頼みがたし。老健頼み難しなどというじゃないか。はははは。進は相変らず達者か。」
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「質問に答えていわく、神秘なり」で、ちょっとこの意味を簡単に説明しがたいのですが、いったい茶道には無駄はないのです。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
されど何故に汝のともき汝ひとりあらかじめ選ばれてこのつとめを爲すにいたれるや、これわが悟りがたしとする所なり。 七六—七八
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
「あはははほんとにがたい。いろいろ手をえ品をえてやって見るんだがね。とうとうしまいに学校の生徒にやらした」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
がたうはござりますが、不調法ぶてうほふでござりますし、それに空腹くうふくもよほしましたで。‥‥』と、玄竹げんちくはペコ/\になつたはら十徳じつとくうへからおさへた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
好きでない気質の交つた子だと、鏡子は昔からの感情のあらたまがたい事も健に思つたのであつた。隣の間で榮子の泣声なきごゑがする。
帰つてから (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
春星しゆんせいかげよりもかすかに空をつゞる。微茫月色びばうげつしよく、花にえいじて、みつなる枝は月をとざしてほのくらく、なる一枝いつしは月にさし出でゝほの白く、風情ふぜい言ひつくがたし。
花月の夜 (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
あなたはがたいお坊様ぼうさまのようですから、くわしくわたしのはなしいていただいて、その上におねがいがあるのでございます。
殺生石 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
色々と言いがたい珍味に出逢う。とりわけ数々の塩辛の味が忘れられない。どの国でもそうだが、料理より国をまともに味わせてくれるものはない。
全羅紀行 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
先ほどの粗末そまつな下人の装束しょうぞくで、何やらおさがたい血気が身内にみなぎっている様子ようすである。舞台の右方に立ち、遠くから小野おのむらじをきっと凝視みつめる。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
暗いすゝけた部屋の天井の下に、私は眠りがたいやうな心地で一夜を送つて、長いこと床の上に洋燈ランプの火を見つめたが、今朝に成つて眼が覚めて見ると
突貫 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
人間以上に心を置けば、恩愛にかれて動転するのは弱くも浅くも甲斐かひ無くもあるが、人間としては恩愛の情のがたいのは無理も無いことである。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
その神のりたまはく、「みまへをよく治めばあれよくともどもに相作り成さむ。もし然あらずは、國成りがたけむ」
勘次かんじはおしなのことをいはれるたびに、おつぎの身體からだをさうおもつては熟々つく/″\たびに、おしな記憶きおく喚返よびかへされて一しゆがた刺戟しげきかんぜざるをない。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
あまり滑らかでない紙の下から、粗い布目が不規則に浮き出しているのだから、何の痕跡あとだかハッキリと見分けがたい。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
さうするうちに、志村しむら突然とつぜんがつて、其拍子そのひやうし自分じぶんはういた、そしてなんにもがた柔和にうわかほをして、につこりとわらつた。自分じぶんおもはずわらつた。
画の悲み (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
何ぞ頭の蠅は追いがたしという、人智進めば天井の蠅も取り尽すものを。広海子爵は蠅取の試験を済ませて席に戻り
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
けれどこれはあにが知らぬからとて、事実無根とは断言出来がたしなど笑ひ申し候。君にも似合はぬ仕事かな。ある事はありてよし、なきことはなくてよし。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
彼はこの色を売るの一匹婦いつひつぷも、知らずたれなんぢに教へて、死にいたるまでなほこのがたき義にり、守りかたき節を守りて、つひに奪はれざる者あるに泣けるなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
〔譯〕三軍和せずば、以てたゝかひを言ひがたし。百官和せずば、以てを言ひ難し。書に云ふ、いんを同じうしきようあは和衷わちゆうせよやと。唯だ一の和字、治亂ちらん一串いつくわんす。
そもそも仏国の土国をたいするを見るに、友誼ゆうぎ懇親によるのほか、さらに他意あらず。ゆえに土国のために害ある約はたつべからず。この理、領解しがたきにあらず。
かようにアメリカの博物館はくぶつかんはなか/\あなどがたいきほひをもつてゐるばかりでなく、近年きんねん支那しななどから古美術品こびじゆつひん金錢きんせんいとはず購入こうにゆうするといふ状態じようたいですから
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)