持主もちぬし)” の例文
「いやいや、この鷲はわたしのい鳥でもない、持主もちぬしといえば、武田家たけだけにご由緒ゆいしょのふかい鳥ゆえ、まず伊那丸君の物とでももうそうか」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それも八月のすえには、みんなめいめいの持主もちぬしもどってしまうのです。なぜなら、九月には、もう原の草がれはじめ水霜みずしもが下りるのです。
種山ヶ原 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
たまたま! 赫奕かくやくたる明星みやうじやう持主もちぬしなる、(おう)の巨魁きよくわい出現しゆつげんじゆくして、天公てんこう使者ししやくちりて、あらかじいんをなすものならむか。
蛇くひ (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
かれはやし持主もちぬしうてつたのである。それでもあまりにひとくち八釜敷やかましいので主人しゆじんたゞ幾分いくぶんでも將來しやうらいいましめをしようとおもつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
清「此の観音さまは見た事があるが、たし持主もちぬしは上州前橋の清水という御用達ごようたしで、助右衞門様のであったが、何うしてこれがお前の手にはいったえ」
バルメラ男爵!かのクリューズ県のエイギュイユ城の持主もちぬしであったバルメラ男爵!、少年が父を救い出すために力を貸してもらったバルメラ男爵!
あね小柄こがらの、うつくしいあいらしいからだかほ持主もちぬしであつた。みやびやかな落着おちついた態度たいど言語げんごが、地方ちはう物持ものもち深窓しんそうひととなつた処女しよぢよらしいかんじを、竹村たけむらあたへた。
彼女の周囲 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
しかるに文政のころ此地の 邦君はうくん風雅ふうがをこのみ玉ひしゆゑ、かの二枚持主もちぬしより奉りければ、吉兵ヱヘ常信つねのぶの三幅対に白銀五枚、かの寺へもあつき賜ありて
それゆえか、少青年期間にける氏は、かなりな美貌びぼう持主もちぬしであったにかかわらず、単に肉欲の対象以上あまり女性との深い恋愛関係などは持たなかった相です。
いやもう羨ましい天恵てんけいを享受している次第で! 大概の上流の紳士は、こういう中流どころの紳士が持っているような胃の腑の持主もちぬしになることが出来さえすれば
しかし水に映る顔が二つで、今や二つの鏡を引揚げた以上、その顔の持主もちぬしとこの鏡の持主とのあいだに、なにかの関係があることだけは、誰にも容易に想像された。
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
あたりに人はいない、金貨きんか持主もちぬしがいるようではなし、ちょうど手のとどくところをとんでいるんだ。
ロミオ すりゃ、その名前なまへ胸板むないた射拔いぬかれたやうにおもうて、その名前なまへ持主もちぬし大事だいじ近親うからころしたゆゑ。
それで、すぐに、その船長のところへ行って、そのこうりの持主もちぬしはだれです、と聞いてみました。
く/\原因を聞いて見ると、いま持主もちぬしが高利貸で、家賃やちん無暗むやみげるのが、業腹ごうはらだと云ふので、与次郎が此方こつちから立退たちのきを宣告したのださうだ。それでは与次郎に責任がある訳だ。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
相当さうたう身柄みがらいへそだつただけに青木さん夫婦ふうふ相方さうはう共に品のいい十人なみ容姿ようし持主もちぬしで、善良ぜんりやう性格せいかくながらまた良家りやうかの子らしい、矜と、いくらかえをるやうな氕質きしつもそなへてゐた。
(旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
これが子爵の心の奥にひそめた響であツた。要するに周三は、子爵の爲に、また勝見家の爲に種馬たねうまの資格となツたのだ。好いうまを生ませる爲に、種馬の持主もちぬしは誰にしても種馬を大事にする。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
この夫婦ふうふうち後方うしろには、ちいさなまどがあって、そのむこうに、うつくしいはな野菜やさいを一めんつくった、きれいなにわがみえるが、にわ周囲まわりにはたかへい建廻たてまわされているばかりでなく、その持主もちぬし
魔力まりょくはそれをはなった持主もちぬし怒気どきをうけて、ブウーンと独楽こま心棒しんぼう生命力せいめいりょくをよみがえらし、蛾次郎がじろうの顔へうなりをあげておどってきた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
魔物まものくて、魔物まものくて、おのれ五位鷺ごゐさぎ漕出こぎだして、ほりなか自然しぜんける……不思議ふしぎふね持主もちぬしるものか。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
しかるに文政のころ此地の 邦君はうくん風雅ふうがをこのみ玉ひしゆゑ、かの二枚持主もちぬしより奉りければ、吉兵ヱヘ常信つねのぶの三幅対に白銀五枚、かの寺へもあつき賜ありて
はたけにはときむぎあをえてたが、それでも持主もちぬしはたけるだけ面積めんせき理由わけなのと、つち分量ぶんりやう格別かくべつことでないのとでることをいなまなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
前の持主もちぬしの時代からここに祭られてあったのだが、もう大変にいたんでいるのと、新しい持主は稲荷さまなどというものに対してちっとも尊敬心を抱いていないのとで
月の夜がたり (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
持主もちぬし老婆ろうばが、ねこをさがしにきて、『わたしのねこが、こちらにきているでしょう。たしかになき声がしていましたよ』と、がなりたて、部屋へやの中をじろじろとのぞきこんだが
神伝しんでん火独楽ひごまがいかにおそるべき魔力まりょくをもっているかということは、だれよりも同じ水独楽みずごま持主もちぬし蛾次郎はよく知っているので、あいつを
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
以前いぜん持主もちぬし二度目にどめのはお取次とりつぎ一人ひとり仕込しこんだおぼえはないから、ひとたちは無論むろんことみなと出入ではひる、國々くに/″\島々しま/″\のものにたづねても、まるつきしつうじない、希有けう文句もんくうたふんですがね
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
わたしは夫人の若いときを知らないが、今から察して、彼女の若盛りには人並以上の美貌の持主もちぬしであったことは容易に想像されるのである。その上に相当の教養もある、家庭も裕福であるらしい。
鰻に呪われた男 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
かれ雀枝すゞめえだることは何處どこはやしでも持主もちぬし八釜敷やかましくいはなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
このさるは、だれ持主もちぬしといふのでもない、細引ほそびき麻繩あさなは棒杭ばうくひゆわえつけてあるので、あの、占治茸しめぢたけが、腰弁当こしべんたう握飯にぎりめし半分はんぶんつたり、ばつちやんだの、乳母ばあやだのがたもと菓子くわしけてつたり
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
背中せなかがぞつとさむる……背後うしろる、ととこ袖畳そでだゝみをしたをんな羽織はおり、わがねた扱帯しごきなにとなくいろつめたつて紀念かたみのやうにえてた、——持主もちぬしくなると、かへつてそんなものが
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
係合かゝりあひにもなんにも、わしふね持主もちぬしでがすよ。」
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)