いえ)” の例文
あるあさのこと、ひがしそらがやっとあかくなりはじめたころ、いつものごとくふねそうと、海岸かいがんをさして、いえかけたのであります。
羽衣物語 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ハントの家はカーライルのじき近傍で、現にカーライルがこのいえに引き移った晩尋ねて来たという事がカーライルの記録に書いてある。
カーライル博物館 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
近所きんじょいえの二かいまどから、光子みつこさんのこえこえていた。そのませた、小娘こむすめらしいこえは、春先はるさきまち空気くうきたかひびけてこえていた。
伸び支度 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
かれとらえられていえ引返ひきかえされたが、女主人おんなあるじ医師いしゃびにられ、ドクトル、アンドレイ、エヒミチはかれ診察しんさつしたのであった。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
それに引きかえて、弥勒みろくの人々にはだいぶ懇意になった。このころでは、どこのいえに行っても、先生先生と立てられぬところはない。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
あたしゃ今こそおまえに、精根せいこんをつくしたお化粧けしょうを、してあげとうござんす。——紅白粉べにおしろいは、いえとき袱紗ふくさつつんでってました。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
表町おもてちょうで小さいいえを借りて、酒に醤油しょうゆまきに炭、塩などの新店を出した時も、飯ひまが惜しいくらい、クルクルと働き詰めでいた。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
私が、まだ十一二の時、私のいえ小石川こいしかわ武島町たけじまちょうにありました。そして小石川の伝通院でんずういんのそばにある、礫川れきせん学校がっこうへ通っていました。
納豆合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
中世武士の従属者に「いえ」「郎党」などというものがある。これも畢竟は同義で、その家に属する人という義であると解する。
賤民概説 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
「早速ながら、用件を申上げるが、実は平次殿、おいえにとって容易ならぬ事が起ったのじゃ。何とか力を貸しては下さるまいかの」
昼来た時には知らなかったが、うちには門が何重なんじゅうもある、その門を皆通り抜けた、一番奥まったいえうしろに、小さな綉閣しゅうかくが一軒見える。
奇遇 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ついでにこのいえもおまえさんにあずけるから、遠慮えんりょなくまってください。わたしたちは当分とうぶん遠方えんぽうへ行ってらさなければなりません。
一本のわら (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
うしをたべてしまった椿つばきにも、はなが三つ四ついたじぶんの海蔵かいぞうさんは半田はんだまちんでいる地主じぬしいえへやっていきました。
牛をつないだ椿の木 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
心柄こころがらとはいひながらひてみずから世をせばめ人のまじわりを断ち、いえにのみ引籠ひきこもれば気随気儘きずいきままの空想も門外世上の声に妨げまさるる事なければ
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「むろん流罪るざいじゃ。陰陽おんよういえへ生まれてこの祈りを仕損じたら、安倍の家のほろぶるは当然じゃ」と、忠通は罵るように言った。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
又市は幸いにして膏薬を貼って此のいえに逗留して居る間は、惠梅比丘尼は方々へときに頼まれて参り、種々いろ/\な因縁話を致しまして
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
あそこにアイスフォオゲルのいえがある。どこかあのへんで、北極探険者アンドレエの骨がさらされている。あそこで地極ちきょくが人をおどしている。
冬の王 (新字新仮名) / ハンス・ランド(著)
かんがえてみると、うれしいどころではありません。じぶんがはじめてを出した森のいえからはなれるのは、しみじみかなしいことでした。
しょうじをはることなど、うまいもので、いえのしょうじはもちろん、しんるいからたのまれて、はりにいくこともありました。
「私はあのいえの中へ這入って行って、あそこに住んでいた奴を、見つけ出してやろうと思います。無論ご一しょに行って下さるでしょうね」
黄色な顔 (新字新仮名) / アーサー・コナン・ドイル(著)
けたたましき跫音あしおとして鷲掴わしづかみえりつかむものあり。あなやと振返ふりかえればわがいえ後見うしろみせる奈四郎なしろうといへるちからたくましき叔父の、すさまじき気色けしきして
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
趙家の親子はうちに入ってともしごろまで相談した。趙白眼もいえに帰るとすぐに腰のまわりの搭連をほどいて女房に渡し、箱の中におさめた。
阿Q正伝 (新字新仮名) / 魯迅(著)
僕はいつものように海岸通りを、海をながめたり船を眺めたりしながらつまらなくいえに帰りました。そして葡萄をおいしく喰べてしまいました。
一房の葡萄 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
五人の仲間なかまはそんなとおくまでは行きません。けれども、おともだちのジャンのいえへ行くのには、たっぷり一キロは歩かなければならないのです。
母の話 (新字新仮名) / アナトール・フランス(著)
梅五郎ばいごろうもうしました目「何時いつからこのいえに住で居る女「はい八年前から目「其前は何所どこに住だ女「それまではリセリウまちで理髪店を開いて居ました、 ...
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
では、ここにそのいえの鍵がある。これがその所在地だ。これを持ってすぐに行って、おまえのいいと思う部屋へおれの寝床を用意しておいてくれ。
するともう夜がしらみかかって来たもんですから、その漆かきも今更うちへ帰りにくくなってしまって、私のいえの近所にある阿弥陀堂の方へ行った。
紀伊国狐憑漆掻語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ある日、彼は祖父そふいえで、そりくりかえってはらをつきし、かかと調子ちょうしをとりながら、部屋へやの中をぐるぐるまわっていた。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
あいや、それにおわす貴人きじんのごそうに申しあげまする。われわれは武田家恩顧たけだけおんこのともがら、ここにいますは、おいえのご次男伊那丸さまにおわします。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
夫婦いえに居て親子・兄弟姉妹の関係を生じ、その関係について徳義の要用を感じ、家族おのおのこれを修めて一家の幸福いよいよ円満いよいよ楽し。
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
いえくらまで売りはらってしまって、それをすっかり大判小判にかえ、何百という千両箱につめて、どこか遠い山の中へ、うめかくしてしまったのです。
大金塊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
丁度ちょうどなつのことでございましたから、小供こどもほとんどいえ内部なかるようなことはなく、海岸かいがんすないじりをしたり、小魚こざかなとらえたりしてあそびに夢中むちゅう
わたしのいえ領地りょうちだった村でらしたある年の八月のことです。それは、さわやかにれわたった日でしたが、風があって、すこしさむいくらいでした。
「でもお千代さんここは姫島のはずれですから、いえはすぐですよ。妙泉寺で待ち合わせるはずでしたねい」
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
悪事あくじをやりだせば、こんなおそろしいてきはない。そいつがおれのいえにまいこんできたんだ。それにやつは、むかしの友だちのグリッフィンだというのだから……
の家でも、五人六人子供の無いうちは無い。この部落ぶらくでも、鴫田しぎだや寺本の様に屈強くっきょう男子おとこのこの五人三人持て居るうちは、いえさかえるし、何かにつけて威勢いせいがよい。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
京都きょうとの画工某のいえは、清水きよみずから高台寺こうだいじく間だが、この家の召仕めしつかいぼく不埒ふらちを働き、主人の妻と幼児とを絞殺こうさつし、火を放ってその家をやいた事があるそうだ
枯尾花 (新字新仮名) / 関根黙庵(著)
兵馬へいばけん」とか「弓馬きゅうばいえ」とかいう語もあるほど、遠い昔から軍事の要具とせられている勇ましい馬の鳴声は、「お馬ヒンヒン」というとおことばにあるとおり
駒のいななき (新字新仮名) / 橋本進吉(著)
二十三日、いえのあるじにともなわれて、牛の牢という渓間たにまにゆく。げにこのながれにはうおまずというもことわりなり。水のるる所、砂石しゃせき皆赤く、こけなどは少しも生ぜず。
みちの記 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
詩のうちで、「森のなかなる七つの城に、三枝みえだに花を咲かせた」いえだといっています。思想も貴族的で、先祖自慢をする処が、ゴビノオやニイチェに似ていますよ。
山林いえくらえんの下の糠味噌瓶ぬかみそがめまで譲り受けて村じゅう寄り合いの席にかたぎしつかせての正坐しょうざ、片腹痛き世や。
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ソログーブが四つのときにちちんで以来いらいはははよそのいえ女中奉公じょちゅうぼうこうをして一人子ひとりごそだげた。
身体検査 (新字新仮名) / フョードル・ソログープ(著)
ウイリイは、その朝早く起きて窓の外を見ますと、うちの戸口のまん前に、昨日きのうまでそんなものはなんにもなかったのに、いつのまにか、きれいな小さないえが出来ていました。
黄金鳥 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
それきたれるはひとをそのちちより、むすめをそのははより、よめをその姑嫜しゅうとめよりわかたんためなり。ひとあだは、そのいえものなるべし。われよりもちちまたはははあいするものは、われ相応ふさわしからず。
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
で、暫く黙って、いえの前の野菜畑の上に眼を落していましたが、急に思い出したように
少年と海 (新字新仮名) / 加能作次郎(著)
結婚沙汰ざたみてより、妾は一層学芸に心をめ、学校の助教を辞して私塾を設立し、親切懇到こんとうに教授しければ、さらぬだに祖先より代々よよ教導を以て任としきたれるわがいえの名は
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
「これはいい思いつきだ。こんな窓かざりは、市長さんのいえにだってありやしない。」
海からきた卵 (新字新仮名) / 塚原健二郎(著)
無論それは自分のいえからして来た声ではなかったが、まだ人通りのある宵の裏街で、一体、どんな女がこびを売ろうとしているのだろう? そしてどんな男が相手になっているのだろう?
接吻を盗む女の話 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
つまりその頃そのなにがしという日本画の生徒は、場所は麹町番町こうじまちばんちょうの或るいえに下宿していた。自分一人では無くて友達と二人で、同じ部屋に起臥きがを共にしていたというような有様ありさまであったのだ。
白い光と上野の鐘 (新字新仮名) / 沼田一雅(著)
まだ布哇はわいの伯母のいえに、寄寓きぐうしていた頃、それはあたかも南北戦争の当時なので、伯母の息子すなわちその男には従兄に当たる青年も、その時自ら軍隊にくわわって、義勇兵として戦場に臨んだのであった。
感応 (新字新仮名) / 岩村透(著)