がら)” の例文
彼等は最初の勢いにも似ず、じり/\と警戒しながら、そして主人のがらを蹈まないように大廻りしながら、床の間の方へ進んだ。
やがて櫛名田姫のがらは、生前彼女が用ひてゐた、玉や鏡や衣服と共に、須賀の宮から遠くない、小山の腹に埋められた。
老いたる素戔嗚尊 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「一度ならず二度までも。……きっと、三度目には、がらとなって、さいごの引導をさずけて戴くのかもしれません」
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その山に葬られた貴い、お方のがらが、塚のなかで、突然深いねむりから村びとたちの魂乞たまごいによって呼びさまされるあたりなどは、非常に凄かったね。
大和路・信濃路 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
闇太郎、浪路のなきがらを入れた唐櫃からびつの蓋に手をかけたが、三斎隠居を見て
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
または祖先の権威を誇る標でもないのです。または亡きがらを安置するただの場所でもないのです。死によって真の生に入る霊魂の住家なのです。そこには死んだ何者も祀られてはいないのです。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
親戚の人達は飾り一つないような病院風の部屋に火鉢を囲んで、おげんの亡きがらの仮りに置いてある側で、三月の深夜らしい時を送った。おげんが遺した物と云っても、旅人のように極少なかった。
ある女の生涯 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
淺い地蟲ぢむしがら
太陽の子 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
悲しくった、浪路にして見れば、一たん、そこからのがれて来た、松枝町の三斎屋敷になきがらを持ちかえされて、仰々ぎょうぎょうしく、おごそかなはぶりの式を挙げられようより、いのちを賭けた雪之丞の
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
おれの死にがらからあの一帖を見出した時には、阿波の武士たちも、いかに大府ささの隠密というものが、使命を奉じるに根強いものか、侍根性にない執着をもつものかを知って慄然りつぜんとするだろう。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)