馬喰ばくろう)” の例文
四十円じゃ唯見たいなもんだって、彼の馬喰ばくろうが言ってから、乃公は毎晩の馬の夢を見る。昼間でも時には人の顔が長く見える位だ。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
だが、それはその昔、蹴裂明神けさくみょうじんの前で見た捨児ではない。長塚新田の馬喰ばくろうが落したハマでもない。この街道には相応ふさわしからぬもの——
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
このうえは、野辺地まで行ってみるほかはないと思っているとき、尻内の馬喰ばくろう宿で、はじめてほのかな手がかりがあった。
奥の海 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
ドーナツ型のでなく、映画「馬喰ばくろう一代」で注意ぶかい人は見たはずの、すずらん型の小鈴である。一個五十円。
「ああ、そうですか、そいじゃ私のほうがやっぱりくわしく知ってます。この間まで馬喰ばくろうをやってましたがね。今ごろは何をしているかまったこまったもんですよ。」
バキチの仕事 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
一人の馬喰ばくろうが、この寺に、一個の茶釜を持ってきて、おれは先日町へゆくとある古道具屋の店前にこんな茶釜があったから求めたが、あまりかっこうがよいので
東奥異聞 (新字新仮名) / 佐々木喜善(著)
これと比べて違ったところはわずかに一点、駒では売主が愚直の農民で、買手が横着欲深の馬喰ばくろうなるに反し、田では買手がさらに無思慮な小作人であることである。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
千鳥の話は馬喰ばくろうの娘のお長で始まる。小春の日の夕方、蒼ざめたお長は軒下へむしろを敷いてしょんぼりと坐っている。干し列べた平茎ひらぐきには、もはや糸筋ほどの日影もささぬ。
千鳥 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
と一人の馬喰ばくろうが手を隠してそで口を差出す。連の男は笑いながらそのなかへ手を入れて
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「四斗だるの尻を抜くような法螺ほらをこくでねえ、面あこそ生っ白くて若殿みてえだが、なんかの時にあ折助より下司げすなもの好みをするだあ、家来持ちが聞いてあきれるだよ、この脚気かっけ病みの馬喰ばくろうめ」
若殿女難記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
朝は馬喰ばくろうの所へ寄って、の馬を大切にするように頼んだ。一寸ちょっと乗って御覧なさいと言うから乃公おれは鞄をほうり出して、彼方此方あっちこっちと乗り廻した。道で先生に会ったのには弱った。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
いろいろわび言してその内へかがんでいて馬乗りを見たが、あんまり下手が多いから笑ったら、馬喰ばくろうどもが三四人で、したたかおれをブチのめして、外へ引きずり出しおった。
山形県の荘内しょうない地方では、この鳥をまたアマケロと呼んでおり、ここにも例の通り馬喰ばくろうのかかあという昔話が伝わっている(『土の香』一四号)。ケロは啼声を擬した名であることうたがいがない。